みなさまこんにちは。

1984年って、もう30年も前なんですね。というと年代がバレますが、グリコ森永事件があって、ロサンゼルスオリンピックがあって、わらべの「もしも明日が・・・。」が流行った年です。キツネ目の男。ありましたねぇ。

さて、1984年のデビューから30年の歴史を誇る世界を代表するミニバン、といえばルノー・エスパスです。このたびルノーは、そのエスパスの後継とされる「Initiale Paris」の量産モデルを今年10月のパリモーターショーで発表することを認めました。

Renault is committed to expanding its upscale offerings with Initiale Paris, CFO says
http://europe.autonews.com/article/20140604/ANE/140609920?template=mobile02&X-IgnoreUserAgent=1

Initiale Paris。「イニシャル・パリ」ですね。この場合の「イニシャル」のニュアンスがちょっとよくわかりませんが、さしずめホンダが「東京一番」という名前で新車を出すようなものでしょうか。昨年のフランクフルトショーでコンセプトモデルが発表されましたが、エクステリアは概ねこの形になりそうです。


このイニシャルパリ、エスパスの後継とされているものの、通常のルノーのモデルとは違い、より裕福で上級な車を求める顧客層をターゲットにしています。有り体に言えば「プレミアムな車が欲しいが、アウディやBMW、ベンツは高過ぎると思っているユーザー向け」ですね。

このプロジェクトは現在はPSAグループのCEOを務めるカルロス・タバレスがルノー在籍時に率いていたもので、タバレス自身はイニシャルパリをルノーから独立したサブブランドにしたいと考えていたそうです。

ここで興味深いのは、ルノーだけでなく、ヨーロッパの大衆車メーカー各社がプレミアム路線に走り出していることです。

シトロエンはDSのモデル名を復活させたDS3を2011年に発売し、日本でも3モデルを発売済みです。こちらは先ごろフェイスリフトを受けたDS3です。


そしてフォードもモンデオベースのMondeo Vignale ConceptとS-MAXベースのS-MAX Vignale Conceptを発表ずみで、2015年に発売する予定です。Vignaleは「ヴィニャーレ」と読みます。



3社の取り組みに共通するキーワードは「プレミアム」です。これまでは、ベースモデルよりも高価なグレードに付けられるサブブランド的なバッジといえば、フォードの「ST」やルノーの「RS」、そしてフィアットの「アバルト」などがありましたが、これらはいずれも走行性能を高めたスポーツシリーズです。一方で「Initiale Paris」「DS」「Vignale」はそれほどスポーツ性は追求せず、主に内外装のデザインや素材、質感を高めることでプレミアムな雰囲気を演出していることが特徴です。

また、製品の位置づけとして各社に共通している点は、「既存の大衆車ブランドよりも高価だがドイツの高級車ブランドよりは安価」という、今まであまり存在しなかったすき間のカテゴリーを目指しているということです。

背景には、長引く欧州の景気低迷により大衆車メーカーの利益率が低下していることがあります。そこで、より利益率の高い上級車種で補いたいという狙いがあります。

大衆車メーカーが抱える構造上の問題は、オーナーが昇進や出世をして裕福になると、他の高級車に乗り換えてしまうことです。上客候補を高級車メーカーに持って行かれてしまうのを指を咥えて見ているしかない。この構造は昔も今も変わらないのでしょうが、やはりそれを看過できない時代になったということです。

最近は、年々高まる燃費規制や排ガス規制に対応するために、メルセデスやBMWなどの高級車メーカーがコンパクトやサブコンパクト市場に進出してきていて、これが大衆車メーカーのシェアの一部を侵食しています。

そして、価格志向の強いユーザーは近年性能や品質が向上しているダチアやシュコダなどのセカンドブランドに流れる傾向があります。不況の最中にあってもこれらのセカンドブランドは好調です。

つまり、大衆車メーカーはヒエラルキーの上下から同時にプレッシャーを受ける状況になっていて、そこから抜け出すための施策の一つがプレミアムブランドの展開というわけです。

さて、3社のプレミアム化計画は上手くいくのでしょうか。

DSやヴィニャーレの直接のライバルとしては、アウディA1やA3、BMW1シリーズ、メルセデスAクラスなどが取り沙汰されています。これだけでもそうとう手強い相手ですが、他にもボルボV40やV60、アルファロメオMiToやジュリエッタ、MINIなども競合しますので、文字通り群雄割拠のレッドオーシャンです。
また、その会社名が「大衆車」であるフォルクスワーゲンも年々クオリティが向上していて、ブランド自体が「プレミアム大衆車」になりつつあります。各メディアでは、大衆車メーカーのプレミアム路線はそうとう厳しい競争になるのでリスクも大きいと評するものが多いですね。

それでは、シトロエンとフォードの取り組みをもう少し詳しく見てみましょう。

シトロエンは、2013年にDS3、DS4、DS5の3モデルを世界で12万台販売し、発売から3年でシトロエンの全モデルの1割を占めるまでになりました。モデル別の利益率は非公開ですが、全体の1割の販売台数で全体の利益の50%を稼ぐという業界水準にほぼ沿ったものであるようです。業界では、シトロエンのDSシリーズの展開は大成功とまでは言えないものの、一定の成功を収めていると捉えられています。

現在、ヨーロッパのシトロエンディーラーの85%にDSの販売スペースが用意されています。シトロエンでは、3〜4台のDSモデルを展示できる専用フロアとDS専任のセールスマンを配置したDSサロンと呼ばれる店舗を、2014年末までに現在のの12店舗から40店舗に増やす計画です。また、DSサロンは欧州だけでなく世界の200都市で展開する計画もあります。下の画像はパリのブランド発信拠点「DS World Paris」です。

photo: PSA Peugeot Citroen

一方のフォード。かつてはジャガーやボルボなどのプレミアムブランドを傘下に収めていましたが、現在はフォードとリンカーンの2ブランドのみになっています。フォードの欧州事業は2010年以来赤字が続いており、収益性の改善が求められています。

今回のヴィニャーレ導入にあたっては、リンカーンの欧州投入も検討されたようですが、ボディもパワートレインも北米の大型車向けしかないため見送られたそうです。

ヴィニャーレはフォードの最上級グレードに付けられるTitanium(タイタニウム)のさらに上に位置づけられますが、今のところブランドとして独立させる予定はないそうです。Vignaleシリーズの顧客には無料で洗車をしてもらえるサービスも検討しているようです。

フォードとしては、全体の販売台数の1割ほどをヴィニャーレが占めることを期待しています。


最後にプレミアムブランドの日本導入はどうなるでしょうか。ルノーのイニシャル・パリもフォードのヴィニャーレも日本導入は未定ですが、シトロエンのDSはシトロエンの日本における販売台数の半分を占めており、PSAにとっても非常に重要なブランドに育ちつつあります。

やはり、日本ではベーシックな輸入大衆車はなかなか売りにくいんですよね。輸入費用がどうしても嵩みますし、そもそも国産車にはないプレミアム性(=性能やデザインやブランドイメージ)を求める人が輸入車を求めるという側面もあるわけです。

そういう意味では、ルノーやフォードが日本でもプレミアムブランドを展開するメリットは十分にあると思います。店舗開発はけっこう大変かもしれませんがね。

輸入車ミニバンウォッチャーの私としては、Initiale ParisとS-MAX Vignaleはぜひ日本に導入して欲しいですね。


【参考記事】
Ford's Vignale to join European upmarket car chase
http://www.reuters.com/article/2013/09/04/us-autoshow-frankfurt-ford-idUSBRE98305L20130904
- Reuters -

Ford unveils upscale S-Max concept with Vignale badge
http://europe.autonews.com/article/20140409/ANE/140409826/ford-unveils-upscale-s-max-concept-with-vignale-badge
- Automotive News Europe -

Ford, Renault move upscale in bid to win back sales from German premium brands
http://ibid4cars.com/news/news-ford-renault-move-upscale-in-bid-to-win-back-sales-from-german-premium-brands

http://www.businessinsider.com/r-fords-upscale-push-in-europe-draws-skeptics-2014-23

PSA's Bonnefont shares strategy for making DS a worldwide winner
http://europe.autonews.com/article/20140609/ANE/140609869/psas-bonnefont-shares-strategy-for-making-ds-a-worldwide-winner
-Automotive News Europe -