みなさまこんにちは。

新年度が始まりましたね。「おい、お前は健康上の理由で来月からもう来なくていいからな。」なんて言われないように頑張ります。

さて、前回の更新からだいぶ間が空いてしまいました。ちょっと別のエントリーを書いていたのですが、とても気になるニュースが入ってきましたので、こちらに触れたいと思います。

なんと、プジョー・シトロエン・ジャポンの社長が交代したそうです。

プジョー・シトロエン・ジャポン株式会社(本社:東京都渋谷区)は、2015年4月1日付で、代表取締役社 長の就任を下記の通り決定いたしました。
プジョー・シトロエン・ジャポン新代表取締役社長就任のお知らせ


前社長の上野国久氏の就任が2011年9月ですので、およそ3年半という任期でした。後任は本国から就任したフランス人のクリストフ・プレヴォ氏です。

さて、新社長のプレヴォ氏はどんな経歴の方なのでしょうか。プレスリリースの抜粋です。
フランス全土における販売現場での実務経験と、取締役としての管理部門での経験があり、就任直前までプジョー・フランスの直営店全70拠点、3000名を超える従業員を統括。フランスにおけるプジョー全新車販売の25%を担うポジションに就いていた。

1967年10月/フランス中央部、シャトールー生まれ
1992年/グルノーブル経営学院大学高等過程(DESCAF)修了
1992年/PSAプジョー・シトロエン・グループ入社
1995年/プジョーセールス&マーケティングマネージャーとして法人向け販売などをフランス地方部で担当
2001年/プジョー・フランス ペリニャン、ボルドーなどの地域販売統括本部長を担当
2011年/フランス国内プジョー販売統括部長を担当
2013年/直営販売店統括本部長に就任

うーん、この経歴を見た限りでは、プレヴォ氏は純然たる「国内営業畑」の方のようです。アジアや日本どころか、フランス本国以外での業務経験はまったくなさそうです。つまりプジョーシトロエンの本丸であるフランス国内の営業部門という、販売の「花形部門」に長年在籍していた方です。

上野氏の前任のティエリー・ポワラ氏は、PSAでアフリカなどの海外オペレーションを担当していましたので、社内からの就任であればポワラ氏のような海外経験のある人物を送り込むのが自然なのかと思いますが、なぜ海外未経験と思われるプレヴォ氏に白羽の矢が立ったのでしょうか。

プレヴォ新社長のコメントとして「ヨーロッパ以外の国でこれまでの経験を活かしたいと思っておりました」とありますが、これを額面通り受け取る人はいないでしょう。

だって、本人のキャリアを考えたら、20年国内営業をやってから海外赴任なんて明らかにリスクが高すぎますからね。海外志向があるなら若いうちにとっくに出てるでしょうし。

ということは、とても海外市場に精通しているとは思えないような人物をアサインせざるを得なかった。PCJの社長交代案件はそれだけ急務だったのかもしれません。

さて、プレヴォ氏は日本市場で素晴らしい成果を出せるのでしょうか。長年の国内営業の経験が活かせるかというと、残念ながらあまり発揮できるようなことはないんじゃないかなあと思います。

PCJのフランス国内営業と日本法人の社長とでは、文化の違いもありますが、それより何より事業環境が全然違います。トップシェアを誇るフランス国内営業には、資金、人材、商品、販路、顧客、ブランドなど、ビジネスを進めるために必要なすべての環境が整っています。そんな花形部門に配属された暁には、あらゆるお膳立てが整えられた舞台で立ち回ることができるのです。

一方「その他海外部門」の日本法人。肩書きは代表取締役社長であっても、実質的にはグループ数百社ある関連子会社の「一支店長」に過ぎません。予算もなければ人もいない。市場に最適化された仕様の商品もなければディーラーネットワークも脆弱。そして「お洒落な小型輸入車」のマーケットはBMWミニとフィアットに完全にお株を奪われてしまった競争環境。PSAの市場シェアはわずか0.1%という超ニッチで、プジョーシトロエン車を普通の人が普通に買うフランスとは顧客層もまったく異なります。

数え上げればきりがありませんが、要するに本国と較べれば「あれもないこれもない何もない」という、本国の社員から見たら唖然とするような逆境で仕事をしなければなりません。まるで、東京の本社営業部から最果ての「留萌支店」に飛ばされるようなものです。「えっ、ここで数字作れって、本気で言ってます?」という状況です。

私自身も以前、日本の大手メーカーの海外営業部門で数十カ国の市場がひとつの部にまとめられたような「その他市場」を担当していたことがあります。国内市場が強い会社で売上の1%にも満たない市場の担当なんて本当に窓際です。マーケティングも製品開発も生産も、やることなすことすべて後回し。まあ、企業の論理としては正しいんですけどね。

ただ、この逆境を前向きに捉えるとすれば、それだけやり甲斐があるということですよね。本社の目が比較的届かない環境で自由に羽を伸ばせる(あくまでも仕事として、ですよ!)のもいいところかと思います。

そして、職務内容がまったく違うとはいえ、売上を伸ばして利益を出すことや、部下の人心を掌握して組織を発展に導くことなど、経営の基本的な要諦はまったく変わりません。そういう意味ではプレヴォ氏が優れたビジネス感覚の持ち主であることを願うばかりです。また、PSAグループでの長い経験で本国とのコネが強いことも期待できますので、ぜひとも日本市場を発展させて頂きたいものです。

ちなみに、前々社長のティエリー・ポワラ氏ですが、PCJ社長退任後、インド法人を経て、現在はプジョーベルギールクセンブルクの責任者を務められているようです。同国はPSAグループにとっては7番目に大きな市場ですから、PCJ退任後に出世していると解釈してよいのでしょう。

それにしても上野国久前社長の退任はあまりにも突然という気がしますね。だって2月に本を出してるんですよ。しかも「プジョー・シトロエン・ジャポン代表取締役社長」名義で。




冒頭のプレスリリースでは、上野氏の退任理由は「健康上の理由」ということだけで、詳細は触れられていません。しかし、自伝出版直後のタイミングといい、いかにも急ごしらえに見える後任人事といい、やはり急に決まったことであり、しかも引き伸ばせなかった。この時点で社長を交代せざるを得い事情があったとみて間違いないのでしょう。

これは何かあるはずだ。そしてその秘密は本書を読み解けば手がかりがつかめるのかもしれない。

ということで、私も買って読んでみました。2,500円とビジネス書としてはちょっと高価ですけどね。

内容はタイトル通り、ホンダとフォルクスワーゲンジャパン、そしてプジョーシトロエンジャポンの3ヶ国の会社(とセガと広告代理店ADKなど)で働いた上野氏がその企業人生で経験したことをまとめた自伝です。

文量はちょっと多めですが、全体的には日本企業と外資系企業の考え方の違いを、上野氏が勤務した各国各社の歴史や上野氏自身の経験から、その企業文化を形式知と暗黙知というキーワードで対比した内容になっています。「車両」や「製品」についてはほとんど記述がないのでそこを期待すると外れますが、フランス車と輸入車業界に興味がある方は読んでみられるといいんじゃないかと思います。

上野氏がホンダからセガ、そしてフォルクスワーゲンからプジョーに転職した経緯なんてそれだけでも興味深いですし、「数字が未達なので期末に押し込んだ」エピソードなんてのが割と赤裸々に語られていて面白いです。輸入車業界の中の人が記した書籍というのはそれだけで貴重ですしね。

ただ、読後に気になったこともいくつかあります。ひとつめは、PCJの社長名義の本なのにPCJについての記述があまりにも少ないこと。まあ、年数を経て後日談になったからこそ語れることも多いわけなので、分からなくはないんですけどね。「フランス人と仕事をするってこんな感じだ!」というエピソードをもっと読みたかったですね。

もうひとつは、どうも内容が尻すぼみなんですよね。現時点での最後のキャリアであるPCJに関する記述が最終章にしかないこともありますが、じゃあ結論として「3つの国の企業で働いてわかったこと」とは要するになんだったのか?それがまとめられていないんですよ。

ひょっとして、書く時間がなくなっちゃったんじゃないかなあと。つまり本来の出版予定日はもう少し後だったのに健康上の理由で退任せざるを得ず、さすがに退任後に「元社長」の名前で出版するわけにもいかず、構想から2年近くかかった原稿は未完成だけど9割方できてるから出しちゃおう、と。私の勝手な推測ですし、ここであれこれ考えても本当の理由は知る術もないですけどね。単に編集センスの問題かもしれませんし。

ともあれ、本書を読んで上野氏が私の大学の先輩、しかも同学部同学科ということもわかり突如親近感が湧きましたので、上野氏におかれましては何卒ご自愛くださいますようお祈り申し上げる次第です。

そして、プレヴォ新社長におかれましても、日本法人の社員ともうまくやってぜひよい成果を出して頂きたいですね。