みなさまこんにちは。

自分は追い風を感じたことはほとんどありませんが、鈍感なんですかね。本当に無風状態なのかもしれませんが。

さて、日本自動車輸入組合から2015年の輸入車販売実績が発表されました。輸入車全体では、外国メーカー製乗用車の2015年1月から12月までの新車登録台数は284,471台で、前年の288,830台から1.5%減少しました。上位及び主要フランス車ブランドの成果は以下の通りです。


当ブログとしては、ここでフランス勢の動向をつぶさに見ていきたいところではありますが、それは別の機会に譲るとして、やはり気になるのはフォルクスワーゲンとメルセデスですね。なんとメルセデスベンツが16年ぶりに輸入車販売で首位に立ちました。

このことは自動車メディアだけでなく一般紙でも報道されたのですが、私が違和感を覚えたのは、首位が交代した要因にフォルクスワーゲンのディーゼル不正事件が挙げられている報道が散見されたことです。

日本自動車輸入組合(JAIA)が8日発表した2015年のブランド別輸入車販売実績は、独フォルクスワーゲン(VW)が前年比18.8%減の5万4766台で2位となり16年ぶりに首位から転落した。排ガス不正問題で秋以降に深刻化した顧客離れが影響した。
15年の輸入車販売、独VWが16年ぶり首位転落 不正問題で
- 日本経済新聞 -

フォルクスワーゲン(VW)は前年比18・8%減の5万4766台となり、メルセデス・ベンツに16年ぶりに首位を譲った。VWは米国でディーゼル車の排ガス規制逃れ問題が発覚した9月以降の販売減が響いた。
VW王国崩壊! 平成27年の輸入車販売、16年ぶりに首位陥落 ベンツが首位に
- 産経新聞 -

不正発覚後は「来店客が半減」という店舗もあったようで、事件が客離れを起こしたことは間違いないのですが、だから首位陥落したのかというとちょっと違うんですよね。ファクトを追っていきましょう。まず、日本におけるメルセデスベンツの2015年1〜12月の新車登録台数は昨年比7.1%増の65,159台、フォルクスワーゲンは同18.8%減の54,765台と、その差は10,394台となりました。

このおよそ1万台の差はどこで生まれたのでしょうか。月別の登録台数を見てみましょう。

- JAIA統計を元に筆者作成 -

表の通り、フォルクスワーゲンの単月の登録台数がメルセデスを上回ったのは2015年2月のみで、その差もわずか137台でした。月別ではメルセデスが「11勝1敗」で、四半期末となる6月には913台、9月には2,044台の大差をつけています。

なお、フォルクスワーゲンのディーゼル不正事件が報道されはじめたのは2015年9月下旬ですので、9月までの販売実績は事件の影響はなかったとみて間違いないと思います。

続いて月別の累計登録台数も見てみましょう。

- JAIA統計を元に筆者作成 - 

なんと、通年の累計で見ると、フォルクスワーゲンは1度もメルセデスの実績を超えなかったんですね。0勝12敗。完敗です。3月の時点では、両者の差は800台でしたが、6月には3,011台、そして9月には5,471台にまで広がっていました。

5,500台の遅れを残り3ヶ月で取り戻そうと思ったら、毎月の販売台数にさらに1,800台上積みしないと追いつきません。これは月販概ね5〜6,000台規模のフォルクスワーゲンにとって3割以上乗せなければならないということであり、到底不可能な話です。

つまり、ディーゼル不正事件の影響が出る前の9月の時点ですでに勝負はついていたということですね。したがって「2015年の輸入車市場は販売好調なメルセデスが終始フォルクスワーゲンをリードし、第3四半期終了時点でほぼ帰趨は見えていた。そして9月下旬にディーゼル不正事件が発覚してとどめを刺した。」というのが正しい理解なのかと思います。

それでは、メルセデスがそこまで好調だった要因はなんでしょうか。

これは結論からいうと、堅実な既存モデルのセールスと、Cセグメントのラインナップ拡大に成功したことだと思います。

では具体的にどんなモデルが売れているのか、JAIAのモデル別トップ20の統計を元に、2社の売れ筋モデルの推移を見てみましょう。なお、下の表で「圏外」とあるのは、その年に販売されてはいるものの、販売台数が20位以下で統計に出てこないという意味です。

- JAIA統計を元に筆者作成 - 

まず目を引くのは、Cクラスの21,031台という数字です。メルセデスの単一モデルで2万台超という実績は突出して高く、車種別でもMINIの21,083台に次ぐ3位となっています。MINIの数字は5つくらいあるボディバリエーションの全部が足されていますし、ゴルフの数字にもトゥーランが含まれているはずですからね。セダンとステーションワゴンと旧モデルのクーペしかないCクラスがいかに売れているかわかります。

また、EクラスやSクラスといった既存モデルも、年による変動はあるものの堅調に売れていて、ガッチリと顧客を囲い込んでいる様子が伺えます。

そして、2013年に発売された2代目Aクラスと2014年に発売されたCLA、GLAのCセグ3兄弟。この末弟達も好評で、販売に厚みを加えています。Aクラスは最盛期の2013年の半分に落ちていますが、一部の需要はCLAとGLAに流れていると思われます。この3車種で2万台超売れていますので問題はないかと。

「ベンツは車種が増えすぎてよくわからないんだよな」という方のためにおさらいしましょう。

Aクラス。これはお馴染みですね。

4ドアクーペのCLA。

デザインコンシャスなワゴンスタイルのCLAシューティングブレーク。


そしてSUVのGLA。


これらのモデルの販売が好調な理由は、メルセデスが取り組んできたブランドの若返り戦略の成果が着実に実を結んでいるためです。ユーザーの平均年齢が60歳に近づいて「老人車」になろうとしていたメルセデスを、もう一度若い人に振り返ってもらおうという取り組み。まあ、若者といっても50〜60代からみた若者なので、実際は30〜40代の脂の乗り切った中年なわけですが。

ユーザーが高齢化するとなぜ問題なのか?それは、彼らがさらに歳を重ねてリタイアしてしまうと、もう顧客がいなくなってしまうからですね。商業主義と言われようとなんだろうと、会社はユーザーよりも永く存続しなければなりませんので、これはメルセデスにとっては相当な危機感だったのだろうと想像できます。そしてこの取り組みは成功を収めています。

average age of a CLA buyer is 43, compared with 50 or older for the rest of the automaker's lineup.(メルセデスの他のモデルのオーナーの平均年齢が50歳以上であるのに対し、CLAのそれは43歳である)
Mercedes design boss Wagener on how the brand is winning younger buyers(メルセデスのデザイントップがいかにして若者を惹きつけたかを語る)
- Automotive News Europe -

CLAは新たな年齢層の獲得にも成功している。メルセデス所有者の平均年齢は、「Cクラス」で54歳、メルセデス全体で見ると57歳という中、CLA所有者では46歳で、これまでよりも年齢層が若くなっている
【レポート】メルセデス「CLA」はこの20年で最も成功したモデル!?
- Autoblog -


この若返り戦略は、車両だけでなく、CMにも貫かれています。GLAの「実写版スーパーマリオ」のCMは日本でも話題になりました。でもこちらの映像もいいんですよ。GLAとマリオが併走するという単純な構図なのですが・・・


もうこれだけでグッときちゃうなあ。初代ファミコンのスーパーマリオに熱中した世代がちょうどAクラスのターゲットユーザーの年齢になっているわけで、あのドット絵マリオがBダッシュする姿を見ていると、いろいろと去来するものがありますね。

何も考えずにただ遊びまわっていればよかった少年時代・・・

「わかるけど、その郷愁ってメルセデスやGLAと全然関係ないじゃん」って?

まあ、いいんですよ。CMを観てほしい人に観てもらって「ああ、いいなあ」と思ってもらえれば、それでブランド価値の向上につながりますからね。

そして人気ポップユニットのPerfumeをアニメ化して起用したAクラスのCM。ファン層が10〜20歳代といわれる「Perfume」と「ベンツ」なんて既存のイメージでは全く噛み合わない。これをドイツが許可して実行していることがすごいですよね。いまのBMWやアウディにはできない演出です。

「しかし、マリオやらPerfumeやら若者世代に媚びるようなマーケティングに旧来のファンは眉をひそめてるんじゃないの」って?

まあ、そういう人もいるでしょうが、既存ビジネスの数字に悪影響がないことはEクラスとSクラスの販売実績が物語っているんだと思います。

とにかく、今のメルセデスには、製品とマーケティングが好循環で回る非常によい時代が巡ってきているのでしょう。

一方フォルクスワーゲン。ゴルフとポロの販売は堅調であるものの、発売から3年以上経過したザ・ビートルやアップ!が息切れしていて、これを補うモデルが出ていないことが見て取れます。メルセデスの積極的な展開と較べると、いかにも守勢に立たされているといった状況ですね。とくに、流行の小型SUVが2008年発売のティグアンしかないというバリエーションの少なさが拡販の難しさを示していると思います。

じゃあゴルフをいまの倍の5万台売れるかというと、それにはどうしても販路の拡大が必要になり、そう簡単にはいきません。既存店で既存モデルを拡販しようと思えば来店客を増やすしかありませんが、こうなると国産車と同じ土俵で戦わなければなりません。なにせ、登録車に限ればスバルが年間12万台、スズキが8万台、三菱が4万台という市場ですからね。
突出したデザインや走る喜び、ラグジュアリー感などの「飛び道具」に頼ることができない「偉大なる普通」が強みのフォルクスワーゲンが、これまで輸入車など考えたこともないような、クルマにはそれほど関心のない「普通の人」に振り向いてもらわなければならないのです。

そのために必要なことは、やはりブランドに親しみを持ってもらうことだと思います。そういう意味では、日本独自で「ゴキゲン!ワーゲン!」と打ち出した販促戦略は的を射ていたのかと思いますが、それも庄司前社長の突然の退任やディーゼル不正事件でうやむやになってしまいました。

ということで、ブランドの立ち位置、競合プレミアム勢の「降臨」、おそらくゴタゴタしているであろうと思われる組織体制、そして会社の信用を根底からひっくり返すディーゼル不正事件。今後フォルクスワーゲンを日本で広げていくのは、相当な障壁が立ちはだかっているのだろうなあと思います。
2016年はビッグネームEクラスのモデルチェンジも控えているメルセデスにとっては順境となるでしょう。フォルクスワーゲンにとっては、新型車ゴルフトゥーランやおそらく新型ティグアンも年中に発売されますが、事件の余波を引きずって思いっきり逆境が続くものと思われます。

私も他人のことはさておき逆境だろうが順境だろうが、地道に頑張らないといけないですね。