みなさまこんにちは。

私もいつ「おい、今年いっぱいで撤退するから残務処理よろしくね。」なんて言われないように頑張らなければいけませんね。もっとも、大切のは会社がいつなくなっても食うに困らず今の生活レベルも維持できるよう自分の価値を高め続けることですが。はい、仕事します。はい。

さて、なななななんと、フォードが日本市場から撤退することが明らかになりました。日本ではプレゼンスの低いフォードですが、企業としての知名度は高いとみられ、一般紙や経済誌でも報じられました。
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米自動車大手フォード・モーターは25日、2016年末までに、日本とインドネシアでの全ての事業から撤退すると発表した。高級車「リンカーン」を含めすべてのフォード車の輸入・販売を停止する。
米フォードが日本から完全撤退 年内で輸入販売を停止
- 朝日新聞 -


日本には90年前の大正時代に進出している、国産メーカーよりも古い老舗中の老舗だったわけですが、その歴史も幕を閉じることとなります。
10店ある直営ディーラーはすべて閉鎖し、42店の独立系ディーラーとの契約も終了することが決定。日本拠点の従業員292名は職を失う。
フォード撤退、日本市場は見捨てられたのか
- 東洋経済 -


撤退の理由は、今の販売規模では採算が合わず、かつこの先好転する見込みもないということです。また、米国自動車業界の関係者や政治家が日本市場に対して事あるごとに指摘する「日本市場の閉鎖性」を、フォードが撤退の理由の一つとして挙げていたのは、滑稽を通り越して微笑ましいとさえ感じます。
「日本は、世界のなかで最も閉ざされた自動車先進市場であり、同国の年間新車市場に占める輸入車の比率は6%にも満たない」
米フォード、競争力不足で日本撤退
- 日本経済新聞 -


フォードの日本での展開を少しでも知る人にとっては、これは辞書の用例に掲載されてもおかしくないくらいの「負け犬の遠吠え」にしか聞こえません。

Ka - wikipedia -

私は個人的には(買ってないけど)フォードを応援していて、(買ってないけど)以前にこんなエントリーを書いてエールを送ったりもしています。以前正規輸入されていたフォーカスSTなんか本気で欲しいと思っていたんですよ(買ってないけど)。

アメリカ製のフォード車には乗ったことはありませんが、欧州製のフォーカスやフィエスタは操縦安定性に定評があり、現地のメディアでは、「〇〇の走りはフォーカスを超えたか?」と事あるごとに引き合いに出されるベンチマークとなっていて、基本性能の高さは折り紙付きなのであります。

フォードジャパンについては、アメリカンフォードとヨーロッパフォードのまったく性格の異なる製品を単一ブランドとして取り扱わねばならず、そのブランディングの難しさはかねてから指摘されていました。

結局その困難を乗り越えることができなかったわけですが、素人考えながら、少ない販売台数で突き抜けたラインアップを揃えることができなかったのが敗因なんだろうなと思います。普通の人が普通に買う「無国籍」なフォードの普通のモデルをそのまま持ってきても、他のブランドに埋没してしまって難しいですよね。

甚だお節介ではありますが、私が勝手に考えた日本におけるフォードブランドのコンセプトは「Extreme.」です。退屈な日常やありふれた車では飽き足らない「突き抜けた体験」を望むユーザーのために、extremely activeでextremely sportyな価値を提供するブランド、それがフォードです。

「Active」なラインアップとしては、筆頭はやはりアメリカンSUVのエクスプローラー。そして欧州製のクーガ。クロスオーバーのエッジが脇を固めるのもいいでしょう。

そして「sporty」は米欧のハイパフォーマンスモデルをフルラインアップ。米国からはもちろんマスタング。欧州からはフォーカスST、フォーカスRS、フィエスタSTのホットハッチ3兄弟を導入します。そして隠し味はオーストラリアフォードFPVからGT F351。5リッターV8のハイパワーセダンなんて他ではなかなかありません。さらにフラッグシップとして2017年発売といわれるスポーツカーの「GT」が加われば完璧です。


Focus RS


FPV GT F 351


GT

ここまでやればまさにフォードのextremeなハイパフォーマンスを訴求できるでしょう。これでメルセデスAMGラインやBMW M、フォルクスワーゲンR、ルノーR.S.などに流れているユーザーを取り込むのです。数を追えないブランドには、販売単価とメンテナンス費用を高める高付加価値路線しか道はないのです。

いやあ、ワクワクしますね。夢が広がりますね!

なに、豪フォードの生産は2016年で終了?日本向けフォーカスはタイ製だからSTは持ってこれない?フィエスタが欧州製でエコスポーツはインド製?そんなバラバラに持ってこられてもロジコストかかりすぎるでしょ?ルノーなんか日産の船の戻り便に積んでくるからコスト半分なんですよ!知るか?ケンブロック連れてきてドリフトさせたって、ST売れなきゃ意味ないでしょ。ううう、このラインアップでどないせいちうねん・・・

こんな呻き声が上がっていたのかどうか私は知る由もありませんが、ともかく残念な話ですね。


F-150

さて、そもそもフォードという企業の状況はどうだったのでしょう?日本から撤退しなければならなかった背景はなんだったのでしょうか?

1990年にはフォード、リンカーン、マーキュリーに加え、英国の高級車であるアストンマーティンとジャガーを保有。96年にはマツダ、99年にボルボ、00年にランドローバーを相次いで傘下にし、拡大路線をひた走っていました。当時のダイムラー・クライスラーやGMと並び「400万台クラブ」を代表する存在でした。

しかし、栄華を誇った「大フォード帝国」も今は昔。マーキュリーは2011年に廃止、リンカーン以外のブランドも2011年までにすべて手放したため、「フォード」と「リンカーン」だけが残されたというのが現状です。

日本では、2015年の販売台数は4,976台で、最盛期の約2万台には遠く及ばないものの、5年連続で増販を達成していて、私は足元の業績は好調なんじゃないかと思っていました。
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モデル別でみると、米国製のエクスプローラーが日本全体の3割を占めているんですね。2015年は1,500台ほど売れていたと思われます。その他、マスタングが500台以上売れたようですね。中古車市場で流通している台数もこの2車種が圧倒的に多いことからも、日本ではアメリカンフォードが強かったことが伺えます。
日本では、最も販売台数の多いフォード車であり、年間販売台数の31%(2015年1月~9月末のデータ)を占める。
見かけと違ってECOなSUV フォード・エクスプローラーが大幅改良


RS200 - wikipedia -

続いてグローバルの状況です。2015年は米国ではGMに次いで2位の260万台、シェア14%(フォード+リンカーン)。ライトトラックのFシリーズはモデル別販売台数で1位となっています。

また、欧州ではフォルクスワーゲングループ、PSA、ルノーグループに次ぐ第4位で、販売台数は100万台、シェアは7.2%でした(2015年)。欧州で2番目に大きな市場の英国ではシェアトップで、ベストセラーモデルの1位がフィエスタ、3位がフォーカスとなっています。

ただし、フォードが全体として好調かというと、そうでもありません。こちらは以前にも利用したグラフですが、2005年は台数ベースで世界3位だったのに、フォルクスワーゲンに抜かれ、ルノー・日産に抜かれ、現代にも抜かれて2014年は6位にまで落ちていました。
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業績も見ていきましょう。フォードグループの売上と利益の推移です。2015年の売上高はおよそ1,500億ドル(17兆円)、純利益は77億ドル(8,700億円)でした。8,700億円というのは馬鹿でかい数字ですが、利益率は0.5%程度で決してよい数字ではありません。2000年代後半の最悪の状態からは抜け出したものの、収益性はぼちぼちといったところです。
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次に、地域別の売上と利益です。売上高は北米が61%、欧州が19%、アジア大洋州が7%で、北米偏重の事業であることがわかります。そして利益は、なんと北米が全体の86%を占めていて、北米以外はまったく利益が出ていないんですね。
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北米でしか利益が出ていないということは、F-150などのライトトラックでしか利益を出せない体質ということなんでしょう。リンカーン?リンカーンは北米で年間10万台くらいしか売れていないので、利益が出ていたとしても微々たるものですね。

しかしその北米も順風満帆ではありません。こちらは米国の販売台数推移です。2000年に400万台あった販売台数は、リーマンショックの2009年までに250万台減らしているのに対し、2010年から2015年までは100万台しか回復していません。
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欧州についてもトレンドは減少傾向で、やはり好調とはいえない状況が伺えます。
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Taurus wagon - wikipedia -

一連の業績を見ていると、フォードグループの喫緊の課題は北米偏重の事業構造を見直して「北米以外・ピックアップ以外」で利益を稼げるようにすることであり、日本市場なんぞにかまけている余裕はまったくなさそうです。「日本に合った仕様」など望むべくもない状況なのかなと。

フォードは歴史的に北米と欧州が独立して製品開発、生産を進めていて、ヨーロッパ製は「欧州フォード」と括られるほどその製品には違いがありました。しかし、やはりそれでは効率が悪いということで、グローバルでモデルの共通化を進めます。

それが2008年ごろから進められている「ワン・フォード戦略」です。これにより、フォーカスやモンデオ/フュージョンは米欧で同じボディが使用されるようになりました。これは一見理に適った施策ですが、なかなか一筋縄では行かないようです。

2012年にデトロイトの北米国際オートショーとパリショーで相次いで発表された4代目モンデオ/2代目フュージョンは、北米では2013年に発売されたものの、欧州での発売は品質問題によって2014年秋にずれ込みました。

また、フィエスタベースのBセグSUV「エコスポーツ」も、ワン・フォード戦略の推進が混乱を生み出している事例と理解できます。

サブコンパクトSUVは欧州では人気沸騰中で、プジョー2008やルノーキャプチャー、オペルモッカ、フィアット500X、マツダCX-3などが犇めく超激戦区となっています。そこにフォードは初のコンパクトSUVとなるエコスポーツを投入しました。


どうでしょう。全幅1,765mm×全高1,655mmというプロポーションは、主流のワイドアンドローなスタイルと較べると背が高すぎるようにみえます。デザインもいかにも「アジアから来ました」という印象で古臭さが漂っています。

これを新興国だけでなく日本や欧州で販売すると聞いて、私は椅子から転げ落ちるかと思いました。だって、今時リアゲートにスペアタイヤを外付けしてるんですよ・・・


「リアゲートにフルサイズのスペアタイヤ」で思い出すモデルといえば・・・

三菱パジェロ。
トヨタランドクルーザープラド。
トヨタ初代RAV4。
ダイハツテリオス。

ジープなんかの本格オフローダーを除けばこんな感じですよね。

古いっ!!古すぎるっ!!

この都市型クロスオーバー全盛の先進国で、ど古いスタイルをまとったエコスポーツが売れるわけがありません。少なくとも先進国のユーザーが望むようなものではありません。日本導入の判断も、まさか日本法人がリクエストしたとは思えませんが、これを「グローバル戦略車」として売りに出さざるを得ないところが、フォードの厳しいところなのかと思います。

このエコスポーツは製品としての詰めも甘かったらしく、欧州メディアでは操安性の低さやデザインが酷評されています。それも「hard to recommend(とてもお勧めできない)」「disappointing to drive(乗ってガッカリ)」「it simply can't compete(まったく勝負にならない)」など、トップギアでもなければ滅多に見かけないような辛辣な批判を浴びせられています。

下記のレビュー動画では「素晴らしいハンドリングのフィエスタベースのエコスポーツがなんでこんなに酷いんだ!!」と、carbuyerでは珍しいブーイングの嵐です。


イギリス人はフォードが大好きなんですよね。だからなおのこと、エコスポーツの出来の悪さに納得がいかないのでしょう。

このエコスポーツ、あまりの酷評を受けて、欧州版ではスペアタイヤが取り除かれ(ただけではなくリアハッチもスペアタイヤレスの専用品に変更)、サスペンションなども欧州市場向けにアップデートされたそうです。それでも古臭いデザインは変えようもなく、厳しい戦いを迫られそうです。ワン・フォード戦略もなかなか難しい舵取りなんでしょうね。

ということで、フォードについてはC-MAXとかS-MAXとかの優秀なMPVが正規輸入されないかなあなんてかすかな期待を抱いていたのですが、それも夢と消えました。フォードについて書きたいことはすべて書きましたので、以上とさせていただきます。長々と失礼しました。

さよならフォード、また会う日まで・・・