みなさまこんにちは。

さて、普段は「いや〜、フランス車っていいですよね〜」とか軽いノリで書きなぐっている当ブログですが、今回は非常にマジメな内容でいきたいと思います。前もってお知らせしておきますが、ものすごく長いです。

クルマ好きなら誰でも気になる、日米自動車摩擦です。

今年1月にアメリカのトランプ新大統領が就任しましたが、その過激な言動に世界中が右往左往されていることはご周知の通りです。アメリカの基幹産業である自動車業界もトランプ騒動に絶賛巻き込まれ中でありますが、それはトランプ氏が米国から流出しつつある自動車生産をなんとか国内に取り戻したいという信条からくるもののようです。

そして、トランプ氏の矛先は日本の自動車産業にも向けられました。
トランプ米大統領は23日、「米国(の自動車メーカー)は日本国内で販売が増えていないのに、日本は米国に何十万台も輸出している」と主張、対日貿易で障壁があると日本を名指しで批判した。
日本市場に貿易障壁=自動車販売で名指し批判-トランプ大統領
- 時事通信 2017/1/24-


トランプ氏が指摘する日本の貿易障壁とは「厳しい環境規制」や「軽自動車優遇税制」なのですが、これはトランプ氏のみならず米国の自動車業界関係者から度々指摘され続けてきたことであり、特に新しい言説というわけではありません。

昔から言われ続けながらも未だに解決されていない(とされる)のですから、ある意味国境に壁を設けたり移民の入国を制限したりするよりも難しいとのかと思います。関税もかけずに消費者に特定の国の自動車を買わせることはできませんので、こればかりは大統領の一存でどうにかなるものではなりません。

はじめに断っておきますが、私は別にトランプ氏を論破したいわけではなく、アメリカ車が日本で売れることは歓迎です。フォードを応援するためにこんな記事(フォード日本撤退の報に寄せて)も書いたくらいです。輸入車好きの私は普段はヨーロッパの方を向いていますが、アメリカ車だろうが韓国車だろうが中国車だろうが、日本の輸入車市場が拡大して活性化することは大歓迎なのです。

アメリカで年間650万台も売れている日本車


さて、トランプ氏の「日本車はアメリカにガンガン入って来とるのに、アメリカ車は日本で売れてへん。」との見解はどこまで本当なのでしょうか。事実関係を見ていきましょう。

まず、アメリカの自動車の年間販売台数はおよそ1,700万台(乗用車、小型トラック、SUVの合計)で世界第2位の自動車大国です(1位は2,500万台の中国)。このうちトヨタやホンダ、日産などの日本メーカーはおよそ650万台を売っていて、市場の4割を占める一大勢力となっています。
SALES AND SHARE OF TOTAL MARKET BY MANUFACTURER
Auto Sales
- The Wall Street Journal -


一方、日本自動車工業会によると、2015年の日本国内の自動車生産台数はおよそ930万台(乗用車、トラック、バスの合計)。うちおよそ半分弱にあたる450万台が外国に輸出され、さらにそのうち150万台がアメリカ合衆国向けでした。日本からアメリカへの輸出は近年は概ね150〜170万台前後で推移しています。
データファイル
- 日本自動車工業会 -


前述のWall Street Journalの統計によると、アメリカに生産拠点を持たないマツダと三菱は全量を日本などからの輸出に頼っていますが、トヨタは85%、ホンダと日産にいたっては95%近くが、米国で販売する車両を米国で生産しています。アメリカで走っている「日本車」のほとんどは米国の工場で米国人(または米国に働きに来ている)労働者によって生産されているのです。

しかしながら、「数十万台」どころか年間150万台という、決して少なくない数の自動車が日本から太平洋を超えて米国に送られていることもまた事実です。

日本でのアメリカ車販売はたったの1万台


それでは、日本でのアメリカ車の販売状況はどうなのでしょうか。2016年の日本の自動車新車登録台数は、登録車と軽自動車を合わせて497万台でした。日本の自動車市場は近年概ね500万台前後で推移しています。そのうち輸入車は34万台で、全体のわずか7%程度にすぎません。これには日本メーカーの海外生産車も含まれていて、海外メーカーの輸入台数に絞ると、29万5千台とさらに少なくなります。
新車・年別販売台数
- 日本自動車販売協会連合会 -
輸入車新車登録台数速報
- 日本自動車輸入組合 -


それでは、この29万5千台のうち、米国からの輸入はどの程度だったのでしょうか?下の表は、日本における海外メーカー車の、国別・ブランド別の販売台数です。「ドイツのBMW傘下のイギリスのMINIは一体どこの国のブランドなのか?」といったような細かい議論もあるかと思いますが、それはさておき。
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これをみると、日本で販売された輸入車の7割はメルセデス・ベンツやBMW、フォルクスワーゲンなどのドイツ車が占めていて、以下、イギリス、フランス、スウェーデンと続きます。そしてアメリカ車は13,546台。輸入車の中でも5%未満という少数派になるのです。

なお、アメリカメーカーの内訳ではジープが9,000台、フォードが2,000台となっていますが、この数字には、ジープ・レネゲードやフォード・フォーカスなどアメリカ以外の国で生産されたモデルも含まれていますので、純粋な「米国製」はおそらく1万台前後になるでしょう。

キャデラックやシボレーは年間600台前後であり、この規模の販売台数だと、私の肌感覚では「輸入車が多く走っている東京都内でもほとんど見かけることがない」レベルです。さらにクライスラーにいたっては、数年前に日本での正規販売を終了したはずのダッジよりも少ないという、開店休業状態と思われてもおかしくない状況なのです。

鳴かぬなら鳴かせてみよう。


ということで、アメリカ車の日本における市場シェアは輸入車の中でもせいぜい5%程度、市場全体の500万台と比べるとわずか0.3%という、雀の涙にも足りないような結果となっているのです。

「ジープはたまに走ってるのを見かけるけど、そういやフォードやキャデラックってほとんど見なくなったよねえ。」という感覚は数字でも裏づけられます。

日米両国の自動車販売の数字だけを捉えれば、トランプ大統領の「米国車は日本国内で販売が増えていないのに、日本は米国に何十万台も輸出している」という主張は間違っていないようにも思えます。

では、どうすれば良いのか。どうしたらアメリカ車は日本で売れるようになるのでしょうか。

「だって0.3%しかシェアが取れていなければ無理でしょう」?

それがどうしたというのでしょう。「あの国で靴を履いている人はいないから、当社の靴は売れるはずがない」ではなく「あの国で靴を履いている人はいないから、当社の靴を売る機会が無限にある!」「日本でアメリカ車に乗っている人はいないから、アメ車を売る機会が無限にある!」と前向きに考えようではありませんか。

ということで「トランプ大統領の任期の4年以内にアメリカ製のアメリカ車を日本で販売し、大きな成果を上げる」ためにはどうしたらよいか。考えてみました。

そうは言っても、アメ車をそのまま売るのは無理だ


まず、アメリカ側の主張である「厳しい環境基準や燃費規制」「軽自動車の優遇税制」についてはどうでしょうか。細かい議論は省きますが、仮にこの障壁が撤廃されたらアメリカ車が日本に大挙して押し寄せてくるでしょうか。

うーん、これは「今の規制のままでも欧州車は年間30万台近く、それも大半がアメリカと同じくらい遠いヨーロッパから輸入されているではないか。甘えるな。」という説で論破されてしまいそうです。

「民主主義の経済大国アメリカで売れている車は、同じ価値観を共有する経済大国日本でも売れるはずなのだ。」

そう考える人がいても無理はありません。

ではアメリカではどのような車が売れているのでしょうか。再度ウォール・ストリート・ジャーナルから、こちらはモデル別トップ20です。

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日本では聞きなれない車種名が並んでいますね。表で「PU」とあるのはピックアップトラックです。トラックといってもダブル・キャブと呼ばれる5〜6人乗りのものもあり、貨物車としてだけではなく、ユーティリティビークルとして利用されます。

ジープ・グランドチェロキーやフォード・エクスプローラーは日本でも需要のあるSUVですね。

しかし、どのモデルも全長5m×全幅2mという「フルサイズ」で、比較的小さいグランドチェロキーでも全長4.8m×全幅1.9mという、日本ではちょっと持て余す大きさです。2トントラックと同じサイズの車を大量に売るのはなかなか難しいでしょう。

アメリカで一番売れている車。フォード F-150。


「日本車は、その大半が米国製とはいえ、アメリカで飛ぶように売れているではないか。アメリカ車が日本で売れない原因は、やはり貿易障壁に違いないのだ。」

そう考える人がいても無理はありません。

トヨタ・カムリやホンダ・アコードはアメリカで長年ベストセラーになっている乗用車ですが、これはアメリカ向けに特化して開発されたモデルです。RAV4やアルティマはそもそも日本未導入の海外専用モデルなのです。

アメリカで売れている日本車は、アメリカ向けに開発された製品であり、日本で同じ車種を販売してもほとんど売れないというのが業界の常識です。それだけ嗜好が異なるのです。つまり、日本メーカーはアメリカで売れるような努力を長年続けているのです。

さらに、ドイツ車も欧州向けの車両を日本にそのまま持ってきているわけではありません。

例えば、フォルクスワーゲン・シャランというミニバンは後席の両側に電動スライドドアを採用していますが、これは日本法人からの「ミニバンは両側電動スライドドアでなければ売れない。電動じゃないなら輸入しない。」という強い要望に基づいて開発されたものです。

また、他のドイツメーカーでも、日本の機械式駐車場に停められるように、日本仕様だけに小さめのアウタードアハンドルを採用して車幅を抑えるなどの細かな対応をしているのです。

アメリカ車が日本で売れるために商品性を高める努力を継続的に行っているかというと、やはり数字が結果を物語っていると言えるでしょう。

「評論はいいから、4年でアメ車を日本で売る方法を考えろ」ですって?

わかりました、わかりましたよ。

とにもかくにも製品が必要だ


今から日本で売れるようなアメリカ車を開発するとしても、自動車は企画から生産開始までに少なくとも2〜3年はかかるといわれており、時間が足りません。新車ができる頃にはトランプ大統領の任期が終わってしまいます。

おっ、そういえば、日本で使い勝手のよさそうな小型車が、GMやフォードにもありました。

それがGMグループのシボレー・クルーズとフォード・フォーカスです。

シボレー・クルーズ。

フォード・フォーカス。


どうですか?カッコいいと思いませんか?

ただ、クルーズもフォーカスもアメリカではほとんど生産されていないんですよね。クルーズはGM韓国主導、フォーカスはドイツの欧州フォード主導で開発されているため、「アメリカ車なのか?」と問われると厳しいかもしれません。アメリカで生産されない理由は、ずばりアメリカでは売れないからです。

ところが、GMはトランプ大統領から「お前とこはクルーズをメキシコから輸入しとるやろ!許さへんで!!」と恫喝されてしまいました。

実はメキシコで生産しているのは米国では需要の少ないハッチバックタイプで、米国で需要のあるセダンタイプだけを米国内で生産しているというのがGMの反論でした。
"All Chevrolet Cruze sedans sold in the U.S. are built in GM's assembly plant in Lordstown, Ohio. GM builds the Chevrolet Cruze hatchback for global markets in Mexico, with a small number sold in the U.S,"(米国で販売されるGMクルーズセダンはすべてオハイオ州で生産されている。クルーズのハッチバックはメキシコで生産されているが主に海外向けであり米国での販売台数は少ない。)
Trump blasts General Motors: Make Chevy Cruze model in US or 'pay big border tax'(トランプがGMを批判:クルーズをアメリカで生産しないと"越境税を課すぞ")
- CNBC -


また、フォードはメキシコでコンパクトカーを生産する計画を、やはりトランプ氏に恫喝されて撤回しました。しかし、フォーカスの生産は予定通りメキシコに移すそうなのです。
Ford will not build a new factory in Mexico, the next-generation Focus will still be built in Mexico.(フォードはメキシコでの工場建設を断念したが、次期フォーカスは予定通りメキシコで生産する。)
Ford's Cancellation Of Mexico Plant Probably Not Because Of Trump Criticism, Saves The Mustang(フォードのメキシコ投資中断の理由はトランプの批判ではなく、マスタングを救うためか。)
- forbes -

ちょ、それじゃフォーカスもクルーズも「米国産の米国車」にならないじゃないですか!

とりあえず、フォーカスやクルーズのハッチバックを無理やりアメリカで生産することにしましょう。利幅が薄く国内で捌けない小型車を高コストの米国で生産することになりますが、きっと大幅な減税などの恩恵があるのでしょう。

おっと、日本向けには右ハンドルを作らなければなりません。キャデラックは日本向けのラインナップを左ハンドル車に絞った結果、年間500台しか売れてません。

幸いなことに、フォーカスもクルーズもグローバル車種で、イギリスやオーストラリア向けの右ハンドル仕様が存在するため、設計上はクリアです。排ガス規制も保安基準もクリアしたことにしましょう。

また、日本と海外では気候や走行条件が異なるため、国産車では考えにくいようなトラブルが起こり得るのも輸入車ならではです。エンジンやトランスミッションのトラブルに見舞われたり、温度変化などによって樹脂系部品が早く劣化するなんていうこともありますが、そんなマイナートラブルの心配もないことにしましょう。

だいぶ前提を端折ったような気がしますが、ようやく車両が整いました。

自動車を売るには販売店も必要だ


商品が完成してもディーラー網がなければ自動車は売れません。2017年1月時点の日本国内のアメリカ車の正規ディーラー店舗数(新車販売のみ、各社ウェブサイトより)は下記の通りです。

・ジープ:76
・シボレー:22
・キャデラック:19
・フォード:0

うーむ、一番売れているジープでも全国に76店しかありません。シボレーとキャデラックは20店前後、昨年日本市場から撤退したフォードはゼロ。なお、クライスラーは正規販売をしているものの、同ブランド名の店舗は存在せず、同じFCAグループのジープ店で1車種だけが細々と販売されているようです。

念のため比較しますと、トヨタの日本国内の販売店数が約5,000、日産とホンダは2,000店強です。輸入車トップ勢はフォルクスワーゲンが250店、メルセデス・ベンツが200店超です。

アメリカブランドディーラーもせめて200店は欲しいところですが、ジープはまだしもシボレーやキャデラック店を1〜2年で10倍に増やすのはちょっと難しそうです。

フォードなんて昨年一斉に店じまいして、居抜きでプジョーディーラーに切り替えたりしたばかりなんですよ。「すんません、また始めますわ」なんて言ったところで、フランチャイズは誰も見向きもしないのではないでしょうか。

これではいくら日本の超優秀な広告会社が素晴らしいマーケティングキャンペーンを展開したとしても売れません。

やはりOEMしかないのか


やはり、日本車メーカーと提携して「キャバリエ2」を作るしかないですかね。

これは、1990年代の日米自動車摩擦を解決するために実施された施策で、当時GMが発売していた中型車「シボレー・キャバリエ」にトヨタのエンブレムを付けて、1996年から2000年までトヨタディーラーでトヨタ車として販売していたものです。

Toyota_Cavalier_1トヨタ・キャバリエ。売れなかった。


トヨタはGM米国工場製のキャバリエを発売するにあたって、日本の消費者の好みに合うように装備を追加したり、トヨタの基準で品質を保証するためにビルド・クオリティ(部材の組み付けや立て付けの品質)に口を出したりと、様々な施策を講じたようです。

それでも日本人の好みにあった商品とはいかず、販売台数は目標の半分を下回り、当初5年を計画していた販売期間を前倒して終了したようです。1990年代半ばの出来事はネットで探してもなかなか出てきませんが、販売終了が専門誌の記事になるほどの出来事ではあったのでした。
日米貿易摩擦を緩和するため、1996年1月からトヨタ店で発売を開始した「キャバリエ」。しかし販売は伸び悩み、当初予定していた5年の販売期間を短縮し生産中止に踏み切った。
トヨタ、「キャバリエ」の販売を終了
- web CG -


アメリカ車に限らず、20年前の輸入車は「故障して当たり前」であり、キャバリエも例外ではなかったようです。しかし、それ以降の輸入車の品質向上は目覚ましく、あのフランス車でさえ目立った故障を経験しない場合も珍しくありません。現在の輸入車のクオリティであれば、日本車に張り合えるのではないでしょうか。言い切る自信はあまりありませんが。

商品性としては、GMクルーズはよく知りませんが、フォード・フォーカスはイギリスのベストセラーであり、その運動性能の高さからごく一部の日本人にも垂涎の的です。これが「トヨタ・フォーカス」として日本で売られることになったら、即座に飛びつく欧州車マニアが少なくとも1,000人、いや2,000人はいるでしょう。エンブレムなんてあとで変えちゃえばいいしね。

トヨタの5,000店の販売網を駆使すればそれこそ北海道の紋別や鹿児島の指宿でも入手可能になります。今のフォーカスやクルーズならトヨタの販売網でまともに売れば、年間2万台くらい売れるのではないでしょうか。マツダ・アクセラやスバル・レヴォーグが2万5千台くらいですからね。

あとはレンタカーやカーシェアリングサービスのフリート需要ですかね。ちょっと前に沖縄に旅行に行ったらヒュンダイのレンタカーをよく見かけました。トヨタレンタカーの保有台数は10万台程度ですから、1割をフォーカスに替えてもらえばこれで1万台。

ジープが素で1万台売れてますから、これで合わせて4万台。GMは日産と組んで日産クルーズで1万台。これでアメリカ車販売台数年間5万台の完成です。

こう考えてみると、あながち非現実的な妄想でもないような気がしますがいかがでしょうか?

え?無理?日本側のメリットが少なすぎる?

うーん、そうなると、スモールスタートとして、シボレーのインパラを右ハンドルにして売り出すですかねえ。フルサイズなので全長5m×全幅1.9mありますが、ちゃんと売り込めば1,000台くらいは売れるんじゃないでしょうか。

_3シボレー・インパラ。


ともかく、トランプ大統領の強い後ろ盾を得ているわけですので、FCAのますますのご発展とシボレーの奮起とフォードの復活を謹んでご祈念いたします。