もう35年以上前になりますが、小学3年生の始業式のことは、今でもよく覚えています。

新卒で新しく赴任してきた男性教師のN先生が、舞台に上がるや否や、喉も張り裂けんばかりの大声で「おはようございます!!」と挨拶したのです。

それまで私が知っていた「学校の先生」とはまったく違う、エネルギーに満ち溢れた若い先生。まるで「体操のお兄さん」のような姿に大きな衝撃を受けるとともに、「うわあ。面白そうな先生だなあ」と感じたことを鮮明に覚えています。

N先生はいつも、赤と黒や、水色と黒の太い縞模様の半袖シャツ(私がそれを「ラガーシャツ」というものだと知るのはだいぶ後のことですが)に、ジャージのズボンを履いていました。

すぐに「N先生のクラスはすごくおもしろい」という噂が広がり「僕もN先生のクラスになりたいなあ」と思っていたのです。

そして小学5年生のとき、私は運よくN先生のクラスになりました。当時の小学校のクラス替えは2年に1回。5〜6年と憧れの「Nっ子」の一員に仲間入りすることになったのです。

N先生は、絵に描いたような熱血先生でした。授業は面白おかしく、子供ならではの冷酷で利己的な発言には非常に厳しく、私も何度もメチャクチャ怒られました。

そして、自分こそがガキ大将と言わんばかりの数々の破天荒エピソード。私が覚えているだけでもこのような具合です。

・今日は天気がよいからと、近くの公園で算数の青空授業。
・通勤用のバイクで子供たちの前で「カミナリ族の水平乗り」をやってみせる。
・通勤用のバイクで校庭を走り回る。
・放課後の校庭遊びで怪我をした子供を救護するために、「大丈夫か!今行くぞ!」と言って、校舎の3階から「外壁をつたって」下りてくる。
・クラスのみんなで保健室から布団を引っ張り出して学校に泊まりビデオ鑑賞。翌朝そのまま授業を受ける。あとで校長先生に怒られたらしい。
・クラスの面白イベントについて、家で兄弟たちに話すと拡散して校長に禁止されるからあまり話さないでほしい、と緘口令が敷かれる。

これだけでも今の基準ではあり得ない事ばかりなのですが、極め付けは「ワゴン車事件」です。

6年生のある時、N先生が大きなワゴン車を買ったのです。車種の詳細な記憶は朧げですが、3代目「三菱デリカ・スターワゴン」で間違いないと思います。
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3代目三菱デリカ・スターワゴン。当時のRV車には当たり前のように「カンガルーバー」が装着されていた。日本にはカンガルーなんて1頭もいないのに。

そのデリカ・スターワゴンに乗って、市民会館で上映される「風の谷のナウシカ」を観に行くことになったのです。

休日の朝、小学校の駐車場にN先生と子供たちが集合しました。その数、およそ15名。大人はN先生1人。車はもちろんデリカ1台しかありません。

土足禁止のスターワゴンに子供たちが乗り込みます。資料によると、スターワゴンの乗車定員は8名でしょうか。詳細な座席配分は覚えていませんが、助手席に2〜3人、2列目に6〜7人、3列目に4〜5人といった感じだったと思います。さながら戦後の闇市列車のように子供たちですし詰めになったデリカは、市民会館に向けて走り出します。

N先生「おわっ、交番だ!みんな伏せろーっ!!頭を窓の下に隠せ!!」

みんな「うわーっ!!頭が出ちゃうよ!!」

市民会館の駐車場で、全長4,460mmのフルキャブワゴン車から、それはそれはたくさんの子供たちが降りてきて、映画を楽しんだ後に再びギュウギュウに詰め込まれて帰っていく。

35年前の当時の乗車定員に関する法令がどうだったのかは定かではありませんが、定員8人のワゴン車に、大人1人と子供14人というのは、まず間違いなく定員オーバーだったでしょう。

2020年の現代にこんなことをしていたら、目撃者にツイッターで晒されて、道路交通法違反で摘発されてN先生の教員生命も一巻の終わりですが、1980年代後半の当時はとても長閑な時代だったのです。

これが、今回の話につながります。

35年前の少年時代に衝撃的な多人数乗車デビューをした私が、いったいどういう因果なのか、いつしか子供3人の5人家族になって、目下3列シート車を血眼になって探しているのです。

1980年代の3列シート車といえば、前述のデリカやトヨタ・タウンエースのようなキャブオーバー車以外には、ラダーフレームの「クロカン四駆」三菱パジェロくらいしかありませんでした。ミニバンブームを巻き起こした初代ホンダ・オデッセイが登場する以前の話です。

しかし、現在は乗用車系プラットフォームを活用した3列シートのMPVやSUVが、国産ブランド、輸入ブランドから多種多様なモデルが販売されています。世界的なSUVブームには食傷気味かもしれませんが、選択肢の幅がかつてないほど広がっているという意味では、よい時代になったと言えるのではないでしょうか。

ということで、1985年に5人家族だったらデリカ・スターワゴンに乗っていたであろう私が、2020年の現在、7人乗りのMPV・SUVとして何を選ぶのか。現実的に日本で入手可能な輸入車をまとめてみました。当ブログですから、検討範囲は当然輸入車です。

プジョー5008
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トップバッターは言わずと知れたグループPSA復活の立役者、プジョーのミッドサイズSUV、5008です。ショートボディ5人乗りの3008に対し、ロングボディの7人乗りは5008という別名を与えられています。全長4,640mm、全幅1,840 - 1,860mm、全高1,650mmと日本でも扱いやすいサイズ。1.6リッター180馬力ガソリンエンジン+8速ATのアリュールが423.7万円ですが、サンルーフと純正カーナビをつけると約487万円。なかなかいいお値段です。燃費はJC08で14.3km/L。ACCに自動ブレーキなどのADASは一通り装備されていますが、ステアリングアシストはありません。

スタイリッシュな外観と内装、手頃なサイズで価格も新古車ならばリーズナブルになります。私にとっての唯一の問題は、5008を買うと4台連続プジョーになってしまうことでしょうか。

シトロエン・グランドC4スペースツアラー
初代C4ピカソがデビューした2006年当時は、マツダ・プレマシー、オペル・ザフィーラツアラー、フォード・C-MAXなどの競合車種が乱立していましたが、MPV人気の低迷に伴い、いずれもすでに廃止されました。
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2013年に2代目に移行したC4ピカソは、ピカソ財団との車名使用許諾契約を解消した2018年以降は「スペースツアラー」と名前を変えて販売されています。現行モデルも既にライフサイクルの末期に入っていると思われますが、次期モデルに関する報道はまだ聞こえてきません。

価格は1.6リッター180馬力のガソリンモデル「シャイン」が384万円から。コンフィギュレーターで詳細を調べようと思ったら、年末から正月にかけてアクセス不能になっていました。日本の販売が絶好調なのは分かるんですが、大丈夫なんでしょうか。これに、往年のハイドロサスを金属バネで再現した「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」が採用されたら、かなり買いだと思うのですが。

フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン
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トゥーランは、2016年発売の小型MPV。最新のMQBプラットフォームが採用され、フロントマスクも最近のVWらしいシャープな顔つきです。TSI Confortlineには、ACCや自動ブレーキが標準装備で、渋滞時にはステア操作支援で車線を維持してくれます。さらに、進路変更先の車線に後続車がいる場合に車線変更を抑制するレーンチェンジアシストシステム「Side Assist Plus」をオプション装着することができます。価格は、3ゾーンエアコンや後席サンシェードなどのアップグレードパッケージ、純正ナビDiscover Proを追加して約418万円と、本日ご紹介するモデルの中ではかなりリーズナブル。ただし、全長4,535mmと、7人乗りMPVとしては小ぶりなので、5人家族で使うには少し物足りないサイズかと思います。

フォルクスワーゲン・シャラン
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2011年に日本で発売されたシャラン。次期モデルは存在せず、消える消えると噂され続けられながらも売られ続けている、息の長いモデルです。サイズは全長4,855mm、全幅1,910mm、全高1,730mmと日本的にはフルサイズ。欧州車としては珍しく両側電動スライドドアを採用しています。車重1,820kgで燃費が15.0km/L(JC08)というのはなかなか優秀かと思います。価格は、TSI Confortlineに純正ナビとセーフティパッケージ(LKAやBSM)を加えて465.9万円。ただし、電動テールゲートはHighlineでないとつきません。Highlineは498.6万円なので、どちらを選択するかは微妙なところです。

シャランはマイナーチェンジを繰り返し、フル液晶メーターやADASも完備されていますが、ゴルフ5をストレッチしたPQ46プラットフォームは、やはり古さが否めません。6速DSGというトランスミッションも、今となっては時代を感じさせます。

さて、フォルクスワーゲンの7人乗りといえば、SUVティグアンのロングバージョンである「ティグアン・オールスペース」がありますが、残念ながら日本には導入されておらず、VW日本に確認したところ、今後導入される予定もないそうです。
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流行りのSUVであり、全長4.7m×全幅1.84mと日本でも問題ないサイズで、英国で右ハンドルも販売されていることから、いまのVWJのラインナップを考えると日本で売らない理由がないような気がするのですが、なにか特別な事情でもあるのでしょうか。シャランの両側スライドドアが日本の強い希望で採用されたから、生産終了まで日本に割当台数が決まっていて、オールスペースを入れてしまうとシャランが捌けなくなってしまうから、とか、そんな理由があるのかないのか、知る由もありませんが。

ボルボ・XC90
ボルボ唯一の7人乗りモデルXC90は、ボルボの新世代プラットフォーム「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」が採用された最初のモデルです。
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エントリーグレードは、2リッター254馬力直4ガソリン8ATのT5 AWD MOMENTUM。価格は、後席エアコンのクライメートパッケージ7.6万円、グラスルーフ22.4万円をつけると843.8万円になります。ADASはステアリングアシスト付レーンキーピングエイドを含めて全部付き。車重は2トン超えですが、燃費はJC08で12.9km/Lとまずまず。中古車では、初期の2016年式で3万km程度走行したT5(2.0リッターガソリン)でようやく500万円を切るレベル。サイズは全長4,950mm、全幅1,930mmで、街で見かけるとやはり大きさを感じます。嫁さん的にはXC90がイチ押しらしいのですが、我が家の駐車場に入るんでしょうか。

BMW・X5
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BMW X5の現行モデルは2019年発売の4代目。高速道路で煽り運転を繰り返して逮捕された輩が、借りパク試乗車の白いX5に乗っていたことは記憶に新しいですね。メーカーが掲げる「駆け抜ける歓び」というスローガンが、自分の運転を楽しむためだけに解釈されるのならば何の問題もありません。しかし、BMWの付加価値である高い走行性能やマッチョな外観は、他者に対して好戦的な消費者の心をも強く捉えてしまい、BMWのSUVには「煽り続ける喜び」というイメージがこびりついてしまいました。

これは誇張でもなんでもなく、BMWのXシリーズ乗りは、住宅地の制限速度30kmの路地でも本当に煽ってきます。裏を返せば、X5に乗っていれば他車から煽られる心配がなくなるわけですが、その代償として「あそこの旦那さんはガラの悪い煽り車に乗っている」と白い目で見られる事を受け容れなければならないのです。私には到底耐えられません。

なお、BMW X5は2019年12月時点では、ラインアップされているパワートレインはxDrive35dの3リッター直6ディーゼルのみだそうです。中古車では先代のガソリン車が4年落ち3万kmで500万円程度。ただし、7人乗りは全中古車のうち10分の1程度と極めて少ないようです。

アウディ・Q7
アウディ唯一の7人乗りはフラッグシップSUVのQ7です。現行モデルの新車は45 TFSI クアトロが827万円から。4年落ち3万kmで500万円ほど。ワゴンのアヴァントを高栄養飼料で太らせたようなスタイリングは地味な印象ですが、雑誌の評価はなかなか高いんですよね。
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メルセデス・ベンツGLB(日本導入予定)
メルセデスも7人乗りモデルが充実したブランドですが、ラインアップはGLS(1113万円〜)、GLE(940万円〜)、Vクラス(巨大バン)など、現実的なモデルがありません。

注目株はGLBではないでしょうか。全長4.6m、全幅1.8mと現実的なサイズです。時期は未定ながら日本導入も予定されているらしく、価格は国内の報道によると、500万円台中盤からと予想されていて、セブンシーターの薄い層を埋めるモデルとして期待ができるのではないかと思います。
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ランドローバー・ディスカバリースポーツ
伝統的なSUVメーカーであるランドローバーにも、レンジローバーやディスカバリーなど複数の7人乗りモデルがラインナップされています。その中で、エントリークラスのディスカバリースポーツは、比較的手頃に買えるランドローバーということで、街中で見かける機会も多いモデルです。
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このディスポ、なんと新車が450万円から買えてしまうのです。プジョー並みのお値段。しかし、エントリーグレードはいわゆる「素」のグレードのため、ACCがつきません。ADAS完備を求めると、現実的には600万円以上のトリムということになりそうです。サイズは全長4.61m、全幅1.90m、全高1.73m。シャープな顔つきでなかなかカッコいいのですが、燃費がJC08で10.2km/Lと見劣りするのがたまにキズです。私は結構好きなんですが、嫁さんにはまったくヒットしないんですよね。



さて、今回の記事では過去と現在の3列7人乗り車を行ったり来たりしていたのですが、ラインアップの豊富化に加えて印象的なのは、車の価格が随分高くなったことです。昔の車の価格を見ていると、200万円も払えば立派な車が買えたんですよ。初代パジェロの2.5Lディーゼルターボ4WDの7人乗りは驚くなかれ、240万円ほどだったようです。そして、冒頭のN先生のデリカスターワゴンは、資料で確認できる限りでは、最廉価グレードはなんと107万円だったのです。

これは、1985年の大卒初任給がおよそ15万円と今より3割以上安かったことを差し引いても、なお割安だったと言えるのではないでしょうか。いまの大卒初任給8ヶ月分では、トヨタ・シエンタのエントリーグレードすら買えませんからね。

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1991年にデビューした2代目三菱パジェロ。7人乗りのロングボディでも300万円未満で手が届く価格だった。

ここ20年近くは日本の賃金水準はまったく上がっていないのに、車の値段だけはグングン上がっていく。昔に比べれば、走行性能も機能も安全性も格段に向上しているとはいえ、若者の車離れが進むと言われるのも無理はないなと思います。

車種は増えたが値段も上がり、本当に選択肢が増えたのか減ったのかよくわからないこの現代において望みの車を買うにはどうしたらよいか。頑張って稼いで給料上げる以外に方法はないですね、という身も蓋もないオチが見えましたので、現場からは以上とさせて頂きます。