みなさまこんにちは。

先日子供を連れて実家に帰ったところ、驚くべきことがありました。

77歳の父が「おっ、天気予報の時間だ」と言ってリビングのソファに座り、テレビのリモコンを手にしてスイッチを入れたのです。しかし、テレビ画面に映し出されたのは天気予報ではありません。それでも父は顔色一つ変えず、テレビ画面を見つめています。

しばらくすると番組が終了し、天気予報が始まりました。父が望んだ番組です。しかし、父が住む八王子市の天気予報はまだ始まりません。気象予報士が指し棒で日本地図をポンポンと叩きながら、日本列島がなぜ暑いのかなぜ寒いのかなぜ風が強いのかだのと、こちらが知りたい情報など一切関知することなく捲し立てます。

日本列島気象概況が終わると、気象予報士がようやく「続いて各地の明日の天気をお伝えします」と言い出しました。来るか八王子。

「まずは西日本です。福岡は...」

いや、ここは東京だし、父も母も私も明日福岡に行く予定もないし、広島、大阪、名古屋の天気も私たちには一切必要ありません。必要なのは明日の八王子の天気だけです。は、ち、お、う、じ。

「続いて関東甲信越地方。」おっ、ようやく来た。八王子、午後から雨?雨かあ。あれ、もう次の画面に移っちまった。何時ごろから雨なんだっけ・・・?

永遠に続くかと思われた天気予報を見終えた父は、テレビを消すと自室に戻って行きました。私は狐につままれたような気分になりました。一体全体この時間はなんだったのだろう。スマホの天気アプリを見ればものの10秒で終わるのに、5分間釘付けになっていなければならないテレビの天気予報番組のうち本当に必要な情報はたったの5秒だけで、あまつさえ聞きたくもないお天気ダジャレまで聞かされてしまう。

10年ほど前からインターネットを始めてパソコンも3台ほど買い換え、不慣れな場所ではGoogleマップを印刷して持ち歩き、Androidガラホから写真付きメールを送信することができる父ですら、天気予報を見るためにテレビの前に座ってしまう。長年の習慣は恐ろしいものです。

しかし、このようなお茶の間の光景は、スマートフォンが普及する10年ほど前までは、ごくごく普通のことだったのです。

一般大衆はテレビや新聞や雑誌などのマスメディアが発信する情報をただ受け取ることしかできなかった時代。選ばれた記者や作家や芸能人や資金力のある企業だけが、新聞誌面やテレビ放送網という極めて限られた全国への発信チャネルにアクセスできた時代が、長らく続いていました。

しかし、インターネットとSNSの爆発的な普及により、誰でも必要な情報を必要なときに必要なだけ摂取できる時代が訪れました。さらに、数万円のスマートフォンと月数千円の通信料金さえ支払えば、誰でも情報発信ができるのです。メディアはもうお前らだけのものではないのだ。

個人が発信する情報に見ず知らずの個人達が面白がって盛り上がり、ネットのみんなが忘れた頃にテレビ局が嗅ぎつけて後追いする。ほんの10年前までは想像もできなかったようなメディアの天変地異が、今まさに起こっているのです。
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これが、2019年にプジョーが東京モーターショーへの出展を取りやめ、六本木ヒルズの小さな半屋外ブースで、細々と日本初公開の新型車を発表した大きな理由です。

PSAだけではなく輸入車勢が軒並み不参加となった2019年のTMS、これは中国市場の発展によって日本市場の相対的な地位が低下したという背景もありますが、そもそも自動車メーカーが多額の広告宣伝費用を投じてモーターショーに出展すること自体が時代遅れになりつつあるのです。日本に限らず欧州でも、フランクフルトやジュネーブといった国際格式のモーターショーへの出展を控えるメーカーは珍しくありません。

さらに、東京モーターショーにあっては、主催者が日本車メーカーの業界団体である自工会であることから海外メーカーが冷遇されているとの指摘もあり、唯一参加するメルセデスもどうもお付き合いレベルということで、海外メーカーの消極的な姿勢に拍車がかかっているきらいがあります。

東京モーターショー 海外メーカー相次ぐ不参加なぜ? 大きな課題 変わる役割


いやー、最近のAutocarはジャーナリズム色が出てきて面白いなあ。米系のAutoblogは残念ながら日本から撤退してしまいましたが、Autocarは最速の欧州車事情に加えて日本の自動車業界にもズバズバ斬り込むという路線をぜひ続けて頂きたいですね。

ということで、輸入車ファンにとってはがっかりなTMSの面構えにすっかりやる気をなくしていたところ、プジョーは六本木ヒルズでPeugeot Show 2019 - Unboring The Futureなる催しを開催するということで、行ってまいりました。

開始時間の10分前ほどに到着。森タワーの前に来ましたが、プジョーのプの字もありません。会場はどこなのでしょうか。
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タワーの右手は行き止まりなので、左手を進みます。ん?こんなところに「リフター」がいるではないですか。
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何か唐突というか、所在なさげというか、プジョー界隈の人でなければ、この車が今回日本初出展の新型車ということはまったく気がつかないのではないでしょうか。ビルの脇にただぽつんと置かれているだけ。何かぞんざいな扱いのような気がします。

怪訝な面持ちでメインタワーの左手を奥に進むと、ありました。ここがメイン会場ですね。手前に308と508、奥の方に日本初出展の新型208が展示されています。
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まだ11時まで数分あるので、会場ブースの外周には規制線が張られています。208のそばにはすでに何人か集まっていますね。

そしていよいよ11時ちょうど。

「みなさま大変長らくお待たせいたしました!!Peugeot Show 2019。 Unboring The Future!!ただいまより、開催いたします!!」

などというアナウンスも華やかなBGMも一切なく、後ろを振り返るといつの間にか規制線が外されていました。おっ、始まった、のか・・・?

小雨まじりの土曜日の午前11時。六本木ヒルズのPeugeot Showは人混みがある訳でもなく、かといって閑散としている訳でもなく、静かにゆったりとした空気感で始まりました。

やはり今日の一番の目当ては208。こちらはプジョー初のピュア電気自動車、e-208です。
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シャープなキャラクターラインを使わずに面の抑揚でふくよかなリアフェンダーを形成しています。いいですね。ダジャレじゃないですよ。
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本官さんみたいに左右が繋がったリアコンビランプも凝った造形です。
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囲まれ感を演出したダッシュボード。コックピットはフル液晶メーターで、内装の質感も先代208より一段上がっているようです。カーボン調のハイライトが効いています。
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EVなのでこんな画面もあるんですね。プリウスみたいだけど、これプジョーなんですよ。
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エアコンはやはりインフォテに統合されています。PSAはいつになったら物理スイッチを復活させるのでしょうか。ステアリングスイッチで温度調節ができるだけでも操作性は遥かに向上すると思うのですが。
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なんと、ピアノボタンに「エアコンOFF」と「A/C MAX」のキーが用意されていました。「このクソ暑いのにいちいちタッチパネルポチポチできるかボケッ!!」というクレームをフランス語で聞いてみたいですね。
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ダークグレーに水色のステッチはスッキリしています。これ、メーター画面の挿し色と統一されているんですよね。日本人が百年かけても到達できない世界です。
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こちらは内燃機関車の208GT Line。若々しくクリーンな力強さを前面に打ち出した印象。デザインに迷いがありません。
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フェンダーアーチモールはツヤツヤのピアノブラック。これ、かっこいいんですが傷は大丈夫なんでしょうか。
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新型208の外装デザインのハイライトは、やはりこのCピラーの造形じゃないかと。これといって特殊な要素がある訳ではないのに、なんかイイ。
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GT Lineの挿し色はスポーティな黄緑。
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新型208のメータークラスターは「3D i-Cockpit」といって、速度計などの主要な情報が手前に浮き出て見えるようになっています。本体の液晶画面の数センチ手前に透明のスクリーンを重ね、そこに別の画面から投影したイメージを重ねて3Dを表現しているようです。

いやー、いいですね。なんというか、新型208は「いいもの感」強いです。外装も内装も作り手が自信に満ちている、そんな印象を受けました。

208と508のリーフレットを頂いて会場を後にすると、なんと先ほどのリフターが展示仕様になっているではないですか。単に開始時間ギリギリまで準備してただけか。
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展示されていたのは全長4.4mで5人乗りのショートボディ。関係者の方に聞いたところ、現時点では7人乗りロングボディの日本導入計画はないそうです。人気も価格も急騰中のSUVではない7人乗り輸入車って需要あると思うんですけどね。残念。

フェンダーアーチモールはごく普通の黒い樹脂。インナードアパネルもカチカチのプラスチックです。208に比べると質素な佇まいで道具に徹しています。
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リフターもステアリングの上にメータークラスターを配置するi-Cockpitですが、最新のプジョーとしては珍しい物理メーター。
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こちらも現在のプジョーのラインナップでは大変珍しいエアコンの物理スイッチ。つーか、全部これでいいじゃん。
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3座独立のリアシート。なお、日本仕様は6:4分割式になる予定だそうです。
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後席用のエアコン吹出口。風量調節もついているようです。
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リフターのパノラミックルーフの真ん中の部分、どうなっているのか疑問だったのですが、なんと荷物置きでした。電車の網棚みたい。
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中央の白い部分は半透過の樹脂なので、物を置くと透けて見えます。
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フロアもそれなりに高いのですが、全高は1.8mあるので車内は広々。子供が車内で立ち上がれるのはまさにミニバンです。
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両側スライドドアは手動式。電動オプションはありません。内側はチェーンが剥き出しになっていますが、こういうものでしたっけ?国産ミニバンのこの部分を見る機会がないのでわかりませんが。
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跳ね上げ式のリアゲートは、閉じるとバシャンという商用バン的な音を発します。道具ですからね。割り切りが必要です。
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荷室の上部には飛行機のようなオーバーヘッドコンパートメントが。後部座席側にも扉がついています。
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なお、プジョー・リフター、1.5リッターディーゼルに8速ATを搭載して336万円という価格。姉妹車として同時に発売されるシトロエン・ベルランゴは新車価格325万円で11万円の差があるのですが、これは装備の違いによるものということです。
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具体的には、リフターにはグリップコントロールが付く。また、センターコンソールが付くので後席エアコン吹出口も付く。ベルランゴはグリコンなし。センターコンソールがないのでウォークスルーできるが、後席エアコンなし、だそうです。なるほど。

さて、リフターの直接のライバルは、やはりルノー・カングーになるかと思います。
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2009年に発売された現行カングー。2019年10月現在はZEN EDCが264.7万円と、リフターデビューエディションの336万円より70万円ほど安い点が魅力です。サイズは「デカングー」と呼ばれるカングーよりもリフターが全長で10cm、全幅で2cmほど大きく、ひとまわり余裕があります。

パワートレインはカングーの115馬力1.2Lガソリンエンジン+6速DCTに対し、リフターは130馬力1.5Lディーゼル+アイシン8速AT。リフターの燃費は未発表ながら、パワーも扱いやすさもリフターの方に魅力を感じます。

そして両車の最も大きな違いは安全装備でしょう。リフターには、ADASとして停止機能付きACC、自動ブレーキ、レーンキープアシスト、ブラインドスポットモニタリング、前後ソナー、バックカメラなど、ほぼフル装備といっていい機能が搭載されています。一方のカングーは、運転支援装備といえばABSとESC(横滑り防止装置)程度しかついておらず、これはプジョー関係者をして「ライバルを大きく凌駕する」と言われてもぐうの音も出ないでしょう。

リフターとカングーの70万円(ベルランゴとの比較では約60万円)という価格差は小さくありませんが、この装備差や機能差をみると、カングーはフルモデルチェンジでもしない限りなかなか厳しい戦いを迫られるのではないでしょうか。良くも悪くも「フレンチネス」で買ってもらえるいわゆるジャンボリー的な市場は完全に飽和してる感じもしますしね。まさにカングー包囲網。

ということで、やはり自動車は物理的なハードウェア製品ですので、実車に触れてみて初めて分かることがたくさんありますね。個人的には、超絶人混みのモーターショーよりも、車をじっくりと見られてよかったんじゃないかと思います。ディーラーと違って査定だの見積もりだの冷やかしだのと面倒なこともないですし。

インターネット時代になってモーターショーはオワコンでも、展示イベントは必要なんでしょうね。次はプジョーだけといわず、PSA3ブランド合同でやるといいんじゃないでしょうか。