ついに来る時が来てしまいました。

トヨタ自動車がオーストラリアでの自動車生産から2017年末までに撤退すると発表したのです。

トヨタ自、2017年末までに豪州生産撤退へ
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N0LF2K220140210

- ロイター -


これで、量産車メーカーによる同国での自動車生産は2017年をもって終焉を迎えることになります。一国の自動車生産がゼロになる。これはオーストラリアの経済にとって大きな影響があることはいうまでもありません。

オーストラリアは自国で自動車の設計・開発から生産まで行う数少ない国の一つでした。これって日本に住んでいると当たり前のように感じることですが、そういう国は世界的には少数派なのです。

かつては日産や三菱、クライスラーやフォルクスワーゲン、ルノーなど世界各国の自動車メーカーが生産拠点を構えていましたが、2014年現在残るのは、GM傘下のホールデン、フォード、トヨタの3社を残すのみ。そのフォードは2016年、ホールデンも2017年での生産撤退を発表していました。最盛期には年間50万台近くあったオーストラリアの自動車生産台数ですが、近年は20万台くらいまで落ち込んでいたのです。

そこへ来て今回のトヨタの豪撤退。豪州で20%強とダントツの市場シェアを誇るトヨタはオーストラリア自動車産業にとって「最後の砦」だったわけですが、環境の変化には抗いきれないということなのでしょう。

冒頭の記事によると、同国には部品や機械設備の企業が約150社あり、約4万5,000人が車両と部品の製造に従事しているということです。部品メーカーや設備メーカーも大規模なリストラを余儀無くされるでしょう。

トヨタをはじめとする自動車メーカーが相次いでオーストラリアの生産から撤退する背景には、同国の人件費の高騰と長引く豪ドル高があるということです。

豪ドル高、長引けば国内経済に打撃=中銀理事
http://m.jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304698204579197010978704916?mg=reno64-wsj


でも、日本だって人件費は高い方だし、過去には1ドル80円台の円高に見舞われているのに、自動車メーカーはちゃんと生き残っています。それがオーストラリアは全滅なんて、どういうことなのか。もう少し深掘りして、オーストラリアの自動車市場についてみてみましょう。

まずは全体像。オーストラリアの自動車市場は、新車登録台数が乗用車とSUVを合わせて90万台程度。市場規模としては日本の5分の1程度、国内市場100万台規模の韓国と同じくらいです。イタリアが130万台、フランスが180万台ですから、そんなに大きな市場ではありません。

2013年のブランド別販売台数では、21万台のトヨタを筆頭に、ホールデン、マツダ、ヒュンダイ、フォード、日産、三菱とつづきます。やっぱり地の利の大きいアジア勢が強いですね。

では、オーストラリアではどんな車が売れているのでしょうか。オーストラリア製の自動車と聞いて真っ先に思いつくのは、ホールデン・コモドアやフォード・ファルコンといった大型サルーンですね。私は4年前に旅行でニュージーランドに行きましたが、そこでも結構走っていました。

こちらがホールデン・コモドア。


そしてフォード・ファルコンです。


面白いところでは、彼の地にはUTEと呼ばれるセダンベースの2座ピックアップがあるところですね。利用シーンがなかなか想像できませんが。画像はコモドアUTEです。


コモドア、ファルコンともに全長4.9m、全幅2m弱のビッグサイズ。広い国では小さな車じゃ心細いですからね。ところがこんなニュースがありました。なんと、オーストラリア製の自動車がオーストラリアで売れてないそうなのです。

Australian-made car sales hit new low
http://news.drive.com.au/drive/motor-news/australianmade-car-sales-hit-new-low-20140106-30cq2.html


記事によると、以前は年間10万台近く売れていたコモドアも最近は4分の1程度に落ち込んでいて、代わりに売れているのは日本やタイ、韓国製の小型車やSUVということです。

車種別の販売台数では、2013年に最も売れたのがトヨタのカローラです。以下、2013年の新車販売ランキングを見てみましょう

1 Toyota Corolla 43,498
2 Mazda 3 42,082
3 Toyota HiLux 39,931
4 Hyundai i30 30,582
5 Holden Commodore 27,766
6 Toyota Camry 24,860
7 Mitsubishi Triton 24,512
8 Holden Cruze 24,421
9 Nissan Navara 24,108
10 Ford Ranger 21,752

1位のカローラは、日本や欧州ではオーリスとして販売されているモデルですね。2位のマツダ3と4位の現代i30もCセグサイズの小型車です。国土が巨大なわりには、小さなサイズの車が売れていますね。ハイラックス、トライトン、ナバラ、レンジャーはいずれもピックアップトラックですね。ピックアップがこんなに売れるなんていうのも、お国柄なんでしょう。

そして、いまやオーストラリアで販売される自動車の9割が輸入車ということです。カローラは日本製、ハイラックスやレンジャーなどのピックアップはいずれもタイから輸入されているようです。トップ10でオーストラリア製はコモドアとカムリだけなのです。

記事では、オーストラリアでの生産を維持するには輸出による規模の拡大が不可欠とされていますが、コモドアやファルコンのような大型セダンが好まれる国ってほとんどありません。日本やヨーロッパじゃデカすぎますし、アメリカは自国でじゃんじゃん作ってますしね。オーストラリアが右ハンドル国というのもマイナスです。コモドアのスポーツバージョンを、同じGMグループであるイギリスのボクスホールがVXR8という名前で売っていますが、まあよほど物好きな人しか買わないと思います。

オーストラリアに比較的近い中国は、いち早く進出していれば可能性はあったかもしれませんが、何せ日米欧の強豪がひしめく厳しい市場ですからね。それに、GMもフォードもトヨタも現地生産していますから、大衆車をオーストラリアから輸入しても採算は合わないでしょう。

結果として、例えばホールデンの主要な輸出先は、市場規模が10万台に満たない隣国のニュージーランドと、大型セダンの需要があるサウジアラビアくらいということになっています。

こういう状況をみてみると、大型サルーンを辞めて売れる車種の生産にいち早く切り替えていれば、オーストラリア製の自動車がここまで競争力を失うことはなかったんじゃないかとも思いますが、そうするとモデルミックス的にタイとバッティングしちゃうし、今さら何を言っても後の祭りです。

コモドアもファルコンも独自のボディはおそらくなくなり、他のモデルのバッヂエンジニアリングになるのでしょうね。UTEタイプは完全に姿を消すのかもしれません。旅行先で見たこともない車をみる楽しみが減るのは残念な気がしますが、栄枯盛衰ですね。

日本におけるフランス車だけは撤退しないよう頑張っていただきたいものです。