みなさまこんにちは。

今回は当ブログでも比較的人気の高いドイツ車の話題です。まあ輸入ミニバン括りということでご容赦ください。それに己を知るにはまず敵からっていうじゃないですか。え?言わない?

それはそうと、ディーゼル排ガス事件で揺れに揺れるフォルクスワーゲンですが、足元の日本の販売実績は、2016年1〜2月の累計で前年比23%減の7,078台。9,126台でトップのメルセデスベンツとはすでに大差がついているばかりでなく、3位で6,337台のBMWにおよそ700台差まで迫られています。ことによっては輸入車2位の座すら危うくなるかもしれませんね。

ここ数ヶ月は一般に報道されるような新たなネタに乏しいからなのかどうかはわかりませんが、私が訪問したフォルクスワーゲンディーラーさんではひっきりなしに車が出入りしていて、普通に忙しい週末のディーラーといった感じでした。これでも来店客は少ない方なのかもしれませんが。

ということで、今回試乗させていただいたのはこちら!先代初期型のデビューから実に13年を経てついにフルモデルチェンジを果たした、新型ゴルフトゥーランです!


うん、先代に比べるとずいぶんとカッコよくなりましたね。(全体撮り忘れました。)

大アップデートの背景にはプラットフォームの刷新があります。先代までのトゥーランは、5代目ゴルフと同じ「A5(PQ35)」と呼ばれるプラットフォームに乗っていましたが、これが新型では現行7代目ゴルフと同じMQBプラットフォームになりました。

そしてプラットフォーム変更に伴ってサイズも大幅に拡大されます。先代トゥーランのサイズが全長4,405mm、全幅1,795mm、全高1,670mm、ホイールベース2,675mmであったのに対し、新型トゥーランは全長4,535mm、全幅1,830mm、全高1,660mm、ホイールベースは2,785mmとなりました。(ともにTSIコンフォートライン)

全長はなんと13cm、ホイールベースも11cm伸長。そして全幅は3.5cm拡がり、全高は1cm低くなりました。実寸も見た目も先代と比べてワイド&ローのプロポーションです。デザインはオーソドックスなMPVそのものですが、いかにも落ち着き払ったミニバンという感じの先代からグッと立派でスポーティな印象になりました。

どれくらい立派になったかというと、ディーラーでは白い新型ゴルフトゥーランと同じ色のシャランを並べて展示してありましたが、パッと見は同じ車に見えるほどです。上手い演出だなあこれ。
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実際、両車の室内の体感的な広さはあまり変わりません。もちろん全長が30cm長いシャランの方がゆとりはありますが「1ランク上の広さ」と感じるほどではありません。トゥーランがそれほど広くなったということですね。
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内装を見てみましょう。フォルクスワーゲンですから、デザインにフランス車のような冒険的な要素はありません。それでもゴルフ7よりも鋭角なラインが多くシャープな印象になりました。以前よく言われたような「事務机的」な雰囲気はありませんが、インナードアハンドルなんかはちょっと尖りすぎかなという気はしますが。
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内装の素材はクラスなりではあるものの、プラスチックの質感はBMWの2シリーズグランツアラーより上ですね。

運転席の着座位置はそれなりに高いですが、着座姿勢は普通です。ボディの伸長化のおかげで先代では少し寝かされていたステアリングも改善され、より普通車に近いポジションが取れるようになりました。

2列目のシートは3座独立式で、中央はほんの少し小さめです。3席ともにISOFIXアンカーが装備されています。また、シートバックテーブルはありますが、後席窓のサンシェードはありません。
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2列目の足元は広いですね。センタートンネルの高さがほぼゼロなので、中央にも普通に座れます。エアコンは温度調節も可能なので、運転中に背後から「暑い、寒い」と言われることもなくなるでしょう。
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3列目は子供用か非常用と割り切った方がよいですが、大人でも座れないことはありません。
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新型ゴルフトゥーランの内装で一番気に入ったのはこれ。バックミラーがフレームレスでおしゃれなんですよ。なんか最新のスマホっぽい。
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荷室も広いです。4〜5人家族ならこれで困ることはほとんどないんじゃないでしょうか。ただし、最近流行りの電動テールゲートがつくのは本国仕様のみで、日本仕様はハイラインでもつきません。
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さてそれではいよいよ試乗してみましょう。今回試乗させていただいたのはゴルフトゥーランTSIハイライン。車両本体価格376.9万円の現時点での最高グレードです。エンジンは直列4気筒の1.4リッター直噴ターボ。トランスミッションはお馴染みのデュアルクラッチ、7速DSGです。

試乗車は走行1,000kmのど新車でしたが、走り出すと低速ではとにかくしなやかです。トゥーランに限らずここ数年で私が乗った輸入車はどれもそうなのですが、低速域の乗り心地は大幅に改善されていますね。輸入車の「高速はいいけど低速だと脚が硬くて突き上げが強い」というのは完全に過去の概念ですね。

速度を上げます。ドイツ車ですから、一般の幹線道路で出せる最高限度の速度域でも平然と走ります。もう少し上屋がフラットに保たれると文句なしだろうなとは思いましたが、慣れてしまえば気にならないのかと。

また、ダブルクラッチトランスミッションでよく言われる発進時のギクシャク感はいまや皆無です。今回は信号待ちだけではなく、車庫入れ体験で何度か切り返す機会もありましたが、違和感はまったくありませんでした。クリープのオンオフもできるし、すごいやこれ。

そしてスロットルを強めに踏み込むと、鬼のように加速します。速い。はっきり言って速いです。トゥーランの1,560kgという車重に1.4TSIエンジンの150馬力/6000rpmと25.5kgm/3500rpmというトルクは、わが先代プジョー308SWと大差ないんですよ(2012年式308SW:1500kg、156ps/6000rpm 、24.5kgm/3500rpm)。

それなのにですよ。なんだこの加速感は。これが最新のダウンサイジング直噴ターボと7速DSGの実力なんでしょうか。また、加速時のエンジンとトランスミッションの音は決して小さくはありませんが、聞いていて不快になるような音質ではありません。

これでモード燃費18.5km/Lですよ。もうこれで十分じゃないですか。

「ああ、ディーゼルですか?ディーゼルは確かにトルクフルで燃料代も安いですけど、ぜひうちのTSIと比較してみてください。静かでパワフル、燃費もいいですよ。ディーゼルなんか要らないっすよ、ハハハ。」

こんなセールストークが二度と使えないのが残念ですね・・・

そしてハンドリング。ミニバンらしく少しスローな設定ですが、コシがあってしっかりしたフィーリングです。走行モードをコンフォート寄りにしても軽すぎることはありません。

今回の試乗路は直線の幹線道路が中心でハンドリングを味わえるようなチャンスはなかったのですが、「首都高を乗り回したら楽しそうだな」という期待が持てる車です。
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ということで、新型ゴルフトゥーラン、はっきり言ってできがいいです。たいていの車は試乗すると「ここはちょっとなあ・・・」というネガがあるものですが、今回はケチのつけどころがありません。強いて挙げるとするならば、希少性の低さくらいでしょうか。それでもゴルフに比べれば全然少ないですけどね。試乗車のカリビアンブルーメタリックもおしゃれです。

これ、ガチの競合車種はやっぱりBMWの2シリーズグランツアラーになるのですが、BMWはちょっと厳しいですね。まず、実用性では断然トゥーランに分がありますが、まあこれは仕方ないでしょう。そして内装の質感、特にプラスチックの質感は断然トゥーランに軍配が上がります。トゥーランの方が「いい物感」が高いですね。

走りでは、2シリーズの正確無比なハンドリングと引き締まった足回りは大きな魅力ですが、368万円の218i(1.5リッター3気筒)ではパワーと静粛性や楽しさの面でまず勝負になりません。となると389万円の218dディーゼルか434万円の220iガソリンですが、両車を比較検討した人のうち、2シリーズを「あえて」選択する人がどの程度いるのかが気にかかります。

私なら?

うーん、グランツアラーの220iには乗っていないのですが、一般道を短時間試乗した限りではトゥーランかなあ。実用性高いですしね。
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いやー、やっぱりフォルクスワーゲンはすごいや。製品としての完成度がハンパない。こういう製品を作り込むのって生半可な技術力や努力ではできないんだろうけど、それにしてもこんなにいい製品を開発できる実力のある企業が、あんな大変な事件を起こすなんて、同じ会社のすることとはまったく思えないよな。

だって、人を騙してよく見せようという動機って、必要な実力が伴っていないからですからね。ちょうど、テレビの男性人気コメンテーターが、実はMBAの学歴も経営コンサルタントという職歴もハーフを思わせる名前さえも一切合切を詐称していたという案件が話題になりました。私は疑惑が報じられるまで、その人の顔も名前もどんなことを話していたのかも知らなかったのですが、「簡単なことをさも難しそうに話している」「もっともそうだが内容はない」なんて評判もあったそうですからね。つまり、見る人が見ればそもそもどこか胡散臭ったわけですよね。

ところがゴルフトゥーランは違うんですよ。別に私が目利きというわけではありませんが、素晴らしい製品なんです。自分が買うかどうかは別として、輸入ミニバンを人に勧めるならトゥーラン一択です。これは間違いない。

しかしそれでもなお、自分はまだどこかで騙されているのかもしれないという疑念を拭い去ることはできません。ディーゼル車の排ガス規制をすり抜けるための不正なソフトウェアを意図的に開発し、1100万台もの車両に搭載して世界中で販売していた。この自動車産業史に残る大事件の当事者から「いや、ガソリンエンジンは大丈夫ですから」と言われたところで何の屁のツッパリにもなりません。

まだ何か出てくるんじゃないか・・・もちろんそれは何の根拠もない私の思い込みでしかないのですが。本当にいい製品なのに、素直に賞賛できないのは実にもったいない。

ゴルフトゥーランの試乗を終えて、そんなことを考えながら愛車で帰路につくと、背後からブラウンのシトロエングランドC4ピカソが近づいてきて、私を追い越していきました。



うむ、あの後ろ姿はやっぱり愛嬌があっていいよねえ。