みなさまこんにちは。

長文遅筆が一向に改善しないためにこのブログの更新もなかなかペースが上がらないのですが、ツイッターでとりとめのないことを呟いていると、少なくともPCサイトではそれなりに生存報告ができている気がするので重宝しております。

ただ、インプレッションが爆発的に伸びるのは決まって非クルマネタであって、ブログのアクセスにはまったく反映されないというのはどういうことなんでしょうか。私の実力不足ですねそうですね。

今後もゆるふわクルマ専門アカとしてネットの片隅で生きて参りますので、よろしくお願いいたします。

さて、米国最大の自動車メーカーであるフォードが日本から撤退することについては以前もまとめました。
フォード日本撤退の報に寄せて
- フランス車のある生活をとことん楽しむブログ -


フォードジャパンの2015年の販売台数は5,000台弱だったのですが、どちらかというとマイナーな輸入車(シトロエンとか、シトロエンとか、シトロエンなど)に乗られている方の中には、フォードが撤退することそのものよりも「年間5,000台『も』売れてるのに撤退しちゃうのかよ・・・」と驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、正規輸入車ビジネスの日本における存続可能性について、外野で入手できる限られたデータに基づくものではありますが、考えてみようかと思います。

ネタが夏らしくない?

ははは、まあそうですね。なにせこの時期はフランス方面からのニュースがぱったりと途絶えて完全にネタが枯渇しますので。

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えっ、私の車、売れてなさ過ぎ・・・?


さて、撤退が決まっているフォードの年間販売台数はおよそ5,000台だったわけですが、フォードと同等か小さい販売規模の輸入車ブランドは決して少なくないんですよね。

2015年の新車販売台数では、プジョーは6,000台弱、ルノーはほぼ5,000台、シトロエンやアルファロメオは2,000台前後といった状況です。

では、これらのブランドがすべて「撤退予備軍」かというと、そんなことはないと思います。やはり、ブランド単位ではなく、グループ単位で見る必要があるのかなと。

プジョーシトロエンジャポンでは、その名の通りプジョーとシトロエンに加え、最近ブランドとして独立したDSも扱っています。輸入業務をどこまで共通化しているかはわかりませんが、基本的には1社で3ブランドの体制です。

また、フォルクスワーゲングループでは、フォルクスワーゲンとベントレーをフォルクスワーゲングループジャパン株式会社、アウディとランボルギーニをアウディジャパン株式会社、ポルシェをポルシェジャパン株式会社が輸入しています。

インポーターとしては3社に分かれていますが、すべてのブランドの輸入後の納車前整備を、一括してVGJの豊橋のテクニカルサービスセンターで行っているそうです。

自動車ビジネスは巨大な物流業という側面も持ち合わせていますので、バックヤード・バックオフィスはできるだけ共有した方が効率的であることは言うまでもありません。

型式取得やリサイクル、リコール対応や部品管理などはブランドを束ねて共通化されていれば、各ブランドの販売台数が少なくてもスケールメリットを出すことができます。

そのため、個別のブランドの販売台数の多寡というのはあまり気にしなくてもよいのかと思います。

インポーターの仕事は新車販売だけじゃなかった


また、インポーターや自動車ディーラーのビジネスは新車販売だけではありません。中古車販売や整備などのサービスも自動車販売業の重要かつ欠かせない部分であります。

いったいどれほど重要なのか、興味深いデータがありました。
日本の自動車ディーラーは、新車販売よりも部品販売、車検、修理、中古車といったいわゆる自動車アフター市場で粗利の48%を稼ぎ出していることが分かる。日本は車検制度が義務付けられているという特殊性はあるが、一般的にディーラーの収益構造は、米国やほかの先進国でも同様である。
自動車アフター市場の重要性の高まりと事業機会
- 野村総合研究所 -


このレポートでは平均的な自動車ディーラーの売上高と粗利の構成が示されています。少し古いデータですが、概ね下記の通りですね。

売上構成は、新車販売が6割、中古車販売が1割、部品・整備収入が2割に対し、粗利は新車が3割、中古車が1割、部品・整備が4割となっています。

つまり、自動車ディーラーでは新車販売による売上高の割合が高いものの、部品販売や整備サービスの利益貢献度は新車販売の4倍もあるということですね。

まあ、部品代は高いですよね。メーカー純正の交換用部品で車を1台組み立てると、部品代だけでとんでもない金額になるらしいですからね。

ここで言いたいことは、自動車ディーラーにとって、またその川上に位置するインポーターにとっても、たとえその年の販売台数が減ったとしても、保有台数が減らなければ利益に与える影響はそれほどは大きくないということですね。

整備などで固定客をガッチリとつかんでおけば、利益が確保できる構造のようです。

えっ、「その割にはうちのディーラーは売りっ放しの放ったらかしで全然ケアしてくれないじゃん」って?

まあ、上記の例はあくまでも平均ですからね・・・

グループ別の販売台数と保有台数をまとめてみた


ともかく販売台数だけでなく保有台数も見た方がよいということでありまして、グループ別の販売台数と保有台数をまとめた数字がこちらです。販売台数は2015年の新車登録台数、保有台数は2015年3月末時点の登録台数です。ソースはいずれもJAIA、日本自動車輸入組合です。

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2015年のブランド別の販売台数でメルセデスベンツに敗れたフォルクスワーゲンですが、グループ合計では91,589台と断トツのトップでした。BMWグループが2位、ダイムラーグループが僅差の3位で、4位はジープやフィアットを擁するFCAグループとなっています。

保有台数は各社とも概ね販売台数の10年分程度といったところです。フォルクスワーゲンは、グループ合計で100万台近くが走行しているということですね。

保有台数が多いということは、それだけ整備の需要があるということです。もちろん純正交換部品の供給が終了してしまえば、いくら車両が整備されてもインポーターの懐には1円も入りませんが、およそ12年という平均保有年数から考えると、大半は供給されていると考えてよいかと思います。

そして我がPSAグループは、2015年の販売台数が8,810台、同年3月末の保有台数が126,123台と、どちらも6番手となっています。

ここからが本稿の核心なわけですが、主要なグループで保有台数10万台を割っているのは、6万1千台のジャガーランドローバージャパン、5万8千台のフォード"撤退"ジャパン、4万5千台のGMジャパン、そして3万9千台のルノージャポンです。

どん尻はルノーですが、こちらは日産の後ろ盾がありますので、アライアンスの解消などといった地殻変動がなければ大丈夫でしょう。6万台のジャガーランドローバーも高級車ですから、まず問題ないかと思います。

GMは本当に厳しそうですね。グループ販売台数が2,000台に満たないと保有台数も2万台レベルになって行くと考えられるわけですが、高級モデルが多いとはいえ、この規模で正規輸入体制を維持できるものなのでしょうか。フォードよりも価格帯は上ですからマージンは確保できているのかもしれませんが。

実は堅調なシトロエン


最後に、わがプジョーシトロエンの日本における保有台数の推移を見てみましょう。先述の通り、2015年の販売台数が8,810台、同年3月末の保有台数が126,123台でした。

プジョーは2000年代前半から右肩上がりに保有台数を増やし続け、ピークを迎えたのは2008年の110,952台。その後は徐々に減少を続け、2015年3月末に95,072台となっています。

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一方のシトロエンは、一貫して24,000台付近を推移し続け、2011年から上昇に転じて2015年は31,051台と、統計が取れた限りでは最大の保有台数を記録しました。

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興味深いのは、ストックである保有台数はフローの販売台数よりも緩やかな推移を示すということですね。プジョーの年間最多販売台数は2003年の1万5,000台で、そこから6年で3分の1以下に急降下してしまいましたが、保有台数ベースで最多になったのは販売のピークから5年後の2008年です。そして現在の保有台数はピークからマイナス15%という水準です。

これは当時大ヒットしたプジョー206や、年間5,000台規模といまからはとても想像できないほど売れていた307などが押し上げたものと思います。

そして当時大量に登録されたこれらのモデルが2008年以降に次第にその役目を終えて登録が抹消されているというのがいまの状況なのでしょう。

シトロエンはプジョーほど年による販売の浮き沈みが大きくなく、2010年以降のDSモデルの増販効果によって保有台数も微増を続けていると考えられます。

さて、両ブランドの今後はどうなるのでしょうか。インポーターであれば当然モデル別の詳細な登録・抹消や故障に関する情報を持っているでしょうから、どの車種がどの程度保有され得るか、それにより各部品の需要がどう変化し得るか、すなわち販売済み車両というストックから生み出される収益を、かなり正確に予測できるのだろうと思います。

そしてこれらのデータや各種実績データに基づいて出店戦略を立てるわけですよね。これはこれで地道で手数のかかる業務です。

私はそれらのデータに触れる立場にはないのであくまでも当て推量ですが、プジョーシトロエンジャポンを取り巻く環境がそれほど大きく変わらないとして、プジョーについては8〜9万台程度、シトロエン・DSは3万台前半で推移するのではないでしょうか。

ということはですね、ディーラーの粗利の4割を占めるといわれる整備需要がプジョーについてはもう少し減っていくかもしれないということであり、プジョーの正規輸入ビジネスおよびディーラー経営においては、しばらく厳しい時代が続くのかなあと要らぬ心配をしてしまうわけです。

それもこれも販売台数が斬増していきさえすればよいわけですが、待望のディーゼルモデルの発売などの明るい材料はありますので、プジョーシトロエンDSの3ブランドの一層のご繁栄をご祈念申し上げる次第です。